注目を集めているテーブルに勧められても着席したくはないが、ここにいれば曦臣が帰ってきたらすぐにわかるだろう。玄関でうろうろする不審者になるよりはマシだ。そう考えて椅子を引き寄せたところで、廊下の生徒が一瞬静かになったのがわかった。
藍曦臣。
しばらく会っていなかったが、話に聞くより酷い顔色だと思った。
「曦臣兄さん、おかえりなさい!」
腫れ物に触れるような空気の中、懐桑が努めて明るく声を掛ける。
ゆっくりと顔を上げ、そちらを見た曦臣が一番に認識したのは立ち竦んでいる江澄だった。
「やあ。……お茶会かい?」
「曦臣兄さんもどうぞ座って?今お茶を淹れますから」
#寄宿学校曦澄
注目を集めているテーブルに勧められても着席したくはないが、ここにいれば曦臣が帰ってきたらすぐにわかるだろう。玄関でうろうろする不審者になるよりはマシだ。そう考えて椅子を引き寄せたところで、廊下の生徒が一瞬静かになったのがわかった。
藍曦臣。
しばらく会っていなかったが、話に聞くより酷い顔色だと思った。
「曦臣兄さん、おかえりなさい!」
腫れ物に触れるような空気の中、懐桑が努めて明るく声を掛ける。
ゆっくりと顔を上げ、そちらを見た曦臣が一番に認識したのは立ち竦んでいる江澄だった。
「やあ。……お茶会かい?」
「曦臣兄さんもどうぞ座って?今お茶を淹れますから」
#寄宿学校曦澄
「誘う必要なさそうだと言うか」
「どういう意味?」
「多分、もう少ししたらわかるよ」
ちらっと扉の方を見て魏無羨は言った。
急にあいつの気が変わったり怖気づいたりしなければ。
「始めてよう。ほら藍湛、甘いのとしょっぱいの、どっちが好きだ?」
魏無羨が小皿に菓子を取り分け忘機の前に押しやる。それをしばらく眺めた後、忘機は蓮の実をひとつ口に入れた。
「何やってるんだ」
その時、談話室に紙袋を下げだ江澄が現れた。
「江兄!一緒にどう?」
「みんなが覗いてるから、何かあるのかと来てみたんだ。約束ってこれか魏無羨」
「江澄は忙しそうだったから声かけなかったんだよ」
#寄宿学校曦澄
「誘う必要なさそうだと言うか」
「どういう意味?」
「多分、もう少ししたらわかるよ」
ちらっと扉の方を見て魏無羨は言った。
急にあいつの気が変わったり怖気づいたりしなければ。
「始めてよう。ほら藍湛、甘いのとしょっぱいの、どっちが好きだ?」
魏無羨が小皿に菓子を取り分け忘機の前に押しやる。それをしばらく眺めた後、忘機は蓮の実をひとつ口に入れた。
「何やってるんだ」
その時、談話室に紙袋を下げだ江澄が現れた。
「江兄!一緒にどう?」
「みんなが覗いてるから、何かあるのかと来てみたんだ。約束ってこれか魏無羨」
「江澄は忙しそうだったから声かけなかったんだよ」
#寄宿学校曦澄
扉は基本的に開放されているので通りかかる寮生が覗いていく。
昨日の今日で用意されたにしてはなかなか豪華な茶会だ。
クリームを絞ったケーキはないけれど日持ちする焼菓子類はある。
ジャムのクッキーやドライフルーツ入りのパウンドケーキ、チョコレート、月餅、塩味のサクサクの蓮の実も。
真ん中に懐桑が分けてもらってきた温室で咲かせている花を飾り、準備は万端。
藍曦臣が、足を止めてくれたらまずは成功なのだが。
「魏兄、江兄は誘ってくれたんだよね?」
「うーん、それなんだけどさ」
魏無羨は頭を掻く。
#寄宿学校曦澄
扉は基本的に開放されているので通りかかる寮生が覗いていく。
昨日の今日で用意されたにしてはなかなか豪華な茶会だ。
クリームを絞ったケーキはないけれど日持ちする焼菓子類はある。
ジャムのクッキーやドライフルーツ入りのパウンドケーキ、チョコレート、月餅、塩味のサクサクの蓮の実も。
真ん中に懐桑が分けてもらってきた温室で咲かせている花を飾り、準備は万端。
藍曦臣が、足を止めてくれたらまずは成功なのだが。
「魏兄、江兄は誘ってくれたんだよね?」
「うーん、それなんだけどさ」
魏無羨は頭を掻く。
#寄宿学校曦澄
時計を見れば、上級生のカリキュラムもそろそろ終わる頃だ。
江澄は少々急ぎ足で姑蘇寮へ向かった。部屋を訪ねるのは気が引けるので玄関辺りで渡せるといいのだけれど。
厚手のパーカーを羽織って出てきたが夕刻は風がなくとも肌寒い。
敷地内の落葉樹がいっそう冬を際立たせ、気持ちまで凍えてしまいそうだ。
しかし道の脇に掃き集められ山になった落ち葉を見て「芋でも焼くか」と呟いた自分の素晴らしいアイデアに、安っぽい感傷などすぐにどこかへ消えてしまうのだった。
#寄宿学校曦澄
時計を見れば、上級生のカリキュラムもそろそろ終わる頃だ。
江澄は少々急ぎ足で姑蘇寮へ向かった。部屋を訪ねるのは気が引けるので玄関辺りで渡せるといいのだけれど。
厚手のパーカーを羽織って出てきたが夕刻は風がなくとも肌寒い。
敷地内の落葉樹がいっそう冬を際立たせ、気持ちまで凍えてしまいそうだ。
しかし道の脇に掃き集められ山になった落ち葉を見て「芋でも焼くか」と呟いた自分の素晴らしいアイデアに、安っぽい感傷などすぐにどこかへ消えてしまうのだった。
#寄宿学校曦澄
そう言って魏無羨はさっさと部屋を出ていった。
邪魔者がいなくなって助かったと、江澄は冷蔵庫から鍋を取り出す。
何を作ってるのか訊かれるのも面倒だし、これが何の役にも立たなかった時お互い気不味い。
鍋の蓮根を汁ごとミキサーにかけ、
滑らかになったところで鍋に戻しもう一度温める。
昨日半分残しておいた方をすり下ろし、それも鍋に入れる。
最後に生姜と豆乳を入れて味を見て、江澄には少し物足りないくらいの塩を足した。
鍋ごと、というのもどうかと思ったので電子レンジ対応の器を食堂で借りた。たっぷり入るが鍋に1/3程残ったので後で義兄にも分けてやることにする。
#寄宿学校曦澄
そう言って魏無羨はさっさと部屋を出ていった。
邪魔者がいなくなって助かったと、江澄は冷蔵庫から鍋を取り出す。
何を作ってるのか訊かれるのも面倒だし、これが何の役にも立たなかった時お互い気不味い。
鍋の蓮根を汁ごとミキサーにかけ、
滑らかになったところで鍋に戻しもう一度温める。
昨日半分残しておいた方をすり下ろし、それも鍋に入れる。
最後に生姜と豆乳を入れて味を見て、江澄には少し物足りないくらいの塩を足した。
鍋ごと、というのもどうかと思ったので電子レンジ対応の器を食堂で借りた。たっぷり入るが鍋に1/3程残ったので後で義兄にも分けてやることにする。
#寄宿学校曦澄
脳内では上手くできてる脳内では
脳内では上手くできてる脳内では
書き物ちょっとしかできなかった🥲
書き物ちょっとしかできなかった🥲
ボランティアで事務作業持ち帰って、私物のPC、プリンタ、コピー用紙を使ってるんだけど、まあ自分の仕事を楽にする為でもあるんだけど、作業指導書を更新してなくて(ボランティアしてる内に私がやることになってた)、でも変更点は手書きで修正されてるのだけど変更なしの部分をしばらく経ってからこれって何ですか?とか訊かれるとじゃあ今まであなたは何をしてたんですかって訊き返したくなるよね
休みが多くて忘れちゃった?
説明してその通りにやってた筈の仕事もしばらくするとわからなくなっちゃうみたいなんだけど
たまに何故私がボランティアやってんだって思う
ホントはダメなやつだと思うんだよねー
ボランティアで事務作業持ち帰って、私物のPC、プリンタ、コピー用紙を使ってるんだけど、まあ自分の仕事を楽にする為でもあるんだけど、作業指導書を更新してなくて(ボランティアしてる内に私がやることになってた)、でも変更点は手書きで修正されてるのだけど変更なしの部分をしばらく経ってからこれって何ですか?とか訊かれるとじゃあ今まであなたは何をしてたんですかって訊き返したくなるよね
休みが多くて忘れちゃった?
説明してその通りにやってた筈の仕事もしばらくするとわからなくなっちゃうみたいなんだけど
たまに何故私がボランティアやってんだって思う
ホントはダメなやつだと思うんだよねー
俺なんかに心配されたくないだろうけれど迷惑ならこれで最後にしよう。
迷惑だなんてあの人は言わないけど顔を見ればわかる。
第一。
先に踏み込んできたのは向こうなのだ。むしろこれくらいの迷惑、押し付けたっていい。
それにもし、もしも、いや。考えるのはよそう。
考え過ぎると身動きが取れなくなる。棘のある蔦に絡まってしまうように。それを断ち切るのは容易ではないことを自分でもよくわかっている。そしてその棘は周囲にいる人間までも傷付けるのだ。
江澄はもう休もうと眉間を揉んでデスクライトを消した。
「おやすみ」
『それにもしも、』
眠りに落ちる瞬間に浮かんだのは。
#寄宿学校曦澄
俺なんかに心配されたくないだろうけれど迷惑ならこれで最後にしよう。
迷惑だなんてあの人は言わないけど顔を見ればわかる。
第一。
先に踏み込んできたのは向こうなのだ。むしろこれくらいの迷惑、押し付けたっていい。
それにもし、もしも、いや。考えるのはよそう。
考え過ぎると身動きが取れなくなる。棘のある蔦に絡まってしまうように。それを断ち切るのは容易ではないことを自分でもよくわかっている。そしてその棘は周囲にいる人間までも傷付けるのだ。
江澄はもう休もうと眉間を揉んでデスクライトを消した。
「おやすみ」
『それにもしも、』
眠りに落ちる瞬間に浮かんだのは。
#寄宿学校曦澄
明日放課後になったら姑蘇寮に集合だ。
義兄が明日の予定を確認しているのと同時刻、江澄も明日の行動を考えていた。
すぐ寮に帰って仕上げれば夕食までの時間に余裕を持って届けられる。だが約束を取り付けていないのにいきなり訪ねて大丈夫だろうか。
会えないなら会えないで藍忘機に届け物を頼んでもいいのだが、ほとんど口を利いたこともなくどうも苦手な相手だった。
その時は義兄に間に入ってもらえばいいかと、ベッドに寝転んでいる魏無羨を振り返った。
あまり詮索されたくないし、できれば本人に直接渡したいけれど。
#寄宿学校曦澄
明日放課後になったら姑蘇寮に集合だ。
義兄が明日の予定を確認しているのと同時刻、江澄も明日の行動を考えていた。
すぐ寮に帰って仕上げれば夕食までの時間に余裕を持って届けられる。だが約束を取り付けていないのにいきなり訪ねて大丈夫だろうか。
会えないなら会えないで藍忘機に届け物を頼んでもいいのだが、ほとんど口を利いたこともなくどうも苦手な相手だった。
その時は義兄に間に入ってもらえばいいかと、ベッドに寝転んでいる魏無羨を振り返った。
あまり詮索されたくないし、できれば本人に直接渡したいけれど。
#寄宿学校曦澄
小さな鍋だが冷蔵庫も小さいので中にあったミネラルウォーターの類は出されてしまった。
煮込まれた蓮根が何になるのか、誰の為に作っているのか。
全ては明日の事後報告を待とう、と魏無羨は緩む口元を戒める為に自分の頬を叩く。
もしかして作戦は中止した方がいいかも知れないけれど、それはそれで楽しみにしている懐桑や何より兄の為にできることがないかと悩む藍忘機のことを考えたら、このまま続行する方に傾いた。
「ま、勝手に茶会を開くだけだし」
「何か言ったか?」
「いーや?あ、そうだ。まだ仕送りの菓子ってあったよな。藍湛に食べさせてやるんだ」
#寄宿学校曦澄
小さな鍋だが冷蔵庫も小さいので中にあったミネラルウォーターの類は出されてしまった。
煮込まれた蓮根が何になるのか、誰の為に作っているのか。
全ては明日の事後報告を待とう、と魏無羨は緩む口元を戒める為に自分の頬を叩く。
もしかして作戦は中止した方がいいかも知れないけれど、それはそれで楽しみにしている懐桑や何より兄の為にできることがないかと悩む藍忘機のことを考えたら、このまま続行する方に傾いた。
「ま、勝手に茶会を開くだけだし」
「何か言ったか?」
「いーや?あ、そうだ。まだ仕送りの菓子ってあったよな。藍湛に食べさせてやるんだ」
#寄宿学校曦澄
時計を確認して江澄は言った。電気鍋のスイッチを切ってコンセントも抜く。
「何か作り始めるから今日は食堂に行かないのかと思った」
「ばか、これは俺のじゃなくて明日、あ」
「明日?」
「……腹減ったろ。行くぞ」
江澄は鍋に蓋をして義兄を先に部屋から追い出した。
もしかして、これは。
わざわざ作戦に巻き込むことないんじゃないか?
きまり悪そうな義弟の顔を見て、魏無羨は余計なことを言うのは止めた。
懐桑は雄鶏と言ったけれど、無理に鳴かせたところで相手には届かない、きっと。
だけどあなたの為に鳴いたなら、心を開いてくれますかね?
是非そうであって欲しい。
#寄宿学校曦澄
時計を確認して江澄は言った。電気鍋のスイッチを切ってコンセントも抜く。
「何か作り始めるから今日は食堂に行かないのかと思った」
「ばか、これは俺のじゃなくて明日、あ」
「明日?」
「……腹減ったろ。行くぞ」
江澄は鍋に蓋をして義兄を先に部屋から追い出した。
もしかして、これは。
わざわざ作戦に巻き込むことないんじゃないか?
きまり悪そうな義弟の顔を見て、魏無羨は余計なことを言うのは止めた。
懐桑は雄鶏と言ったけれど、無理に鳴かせたところで相手には届かない、きっと。
だけどあなたの為に鳴いたなら、心を開いてくれますかね?
是非そうであって欲しい。
#寄宿学校曦澄
今の時期はもうあまり新鮮ではないのだが、それでも他の日持ちする果物や菓子と共に送られてくるのはその味をふたりが恋しがるからだった。
部屋で調理する蓮根料理はほとんどが塩と唐辛子で味付けした炒め物か汁物だ。他の具材はまずない。
だから先日のように骨付き肉と一緒に煮込んだ汁物などは寮食にリクエストできた時しか食べられないのだ。
江澄は手早く半分にした蓮根の皮を剥くと粗く刻んで鍋に入れ、もう半分は一旦布巾に包んで置いた。
鍋の蓮根には顆粒のスープの素を入れ、火加減を弱にする。
魏無羨は頬杖をついてその様子を眺めていた。
準備された調味料の中に唐辛子はなかった。
#寄宿学校曦澄
今の時期はもうあまり新鮮ではないのだが、それでも他の日持ちする果物や菓子と共に送られてくるのはその味をふたりが恋しがるからだった。
部屋で調理する蓮根料理はほとんどが塩と唐辛子で味付けした炒め物か汁物だ。他の具材はまずない。
だから先日のように骨付き肉と一緒に煮込んだ汁物などは寮食にリクエストできた時しか食べられないのだ。
江澄は手早く半分にした蓮根の皮を剥くと粗く刻んで鍋に入れ、もう半分は一旦布巾に包んで置いた。
鍋の蓮根には顆粒のスープの素を入れ、火加減を弱にする。
魏無羨は頬杖をついてその様子を眺めていた。
準備された調味料の中に唐辛子はなかった。
#寄宿学校曦澄
江澄の態度など気にすることもなく、魏無羨は荷物を覗き込む。
「……調理器具?」
「ああ」
寮の部屋では電気調理器なら使用が認められていて、小さなホットプレートの類はどの生徒も持ち込んでいた。もちろんふたりの部屋にもそれらはあるのだが、江澄が調達してきたのは普段の焼いたり煮たりするだけでは使わない道具だ。
江澄は一旦道具を置くと、今度は実家から送られた食材を漁る。
「悪いな。ちょっとうるさくする」
「それはいいけど」
「よかった足りそうだ」
食材を並べて頷くと、江澄は夕食前の今からさっそく調理するつもりなのか洗面所で念入りに手を洗った。
「……蓮根?」
#寄宿学校曦澄
江澄の態度など気にすることもなく、魏無羨は荷物を覗き込む。
「……調理器具?」
「ああ」
寮の部屋では電気調理器なら使用が認められていて、小さなホットプレートの類はどの生徒も持ち込んでいた。もちろんふたりの部屋にもそれらはあるのだが、江澄が調達してきたのは普段の焼いたり煮たりするだけでは使わない道具だ。
江澄は一旦道具を置くと、今度は実家から送られた食材を漁る。
「悪いな。ちょっとうるさくする」
「それはいいけど」
「よかった足りそうだ」
食材を並べて頷くと、江澄は夕食前の今からさっそく調理するつもりなのか洗面所で念入りに手を洗った。
「……蓮根?」
#寄宿学校曦澄
忘機はそっと部屋を出た。
「あれ?江澄いないのか?」
冷え込んだ自室の明かりを点けながら魏無羨は言った。
ベッドの中も覗いたけれど、やはり同室の義弟は不在のようだ。
「どこ行ったんだろ。話があるのに」
茶会の真似事の誘いだがそれが藍曦臣の気を引く為だと知れば断られるような気がして、余計な情報を義弟が得る前に言質を取ってしまいたかった。
やがて義兄が待ち侘びる部屋に帰ってきた江澄は両手に何やら荷物を抱えていた。
「おい、先に帰ったなら暖房を点けろ」
寒がりという訳でもないのだが江澄の語気は魏無羨に対しては強かった。
#寄宿学校曦澄
忘機はそっと部屋を出た。
「あれ?江澄いないのか?」
冷え込んだ自室の明かりを点けながら魏無羨は言った。
ベッドの中も覗いたけれど、やはり同室の義弟は不在のようだ。
「どこ行ったんだろ。話があるのに」
茶会の真似事の誘いだがそれが藍曦臣の気を引く為だと知れば断られるような気がして、余計な情報を義弟が得る前に言質を取ってしまいたかった。
やがて義兄が待ち侘びる部屋に帰ってきた江澄は両手に何やら荷物を抱えていた。
「おい、先に帰ったなら暖房を点けろ」
寒がりという訳でもないのだが江澄の語気は魏無羨に対しては強かった。
#寄宿学校曦澄
ただ、今の兄には聞こえる声も届いていないのだという気がする。
意固地なところがあるのは自分だと思っていたけれど、兄にもそのような一面があったのだと忘機は初めて気付かされた。
とにかく、茶を淹れよう。
明日使う茶葉を準備しながら兄と来客の為の茶を淹れた。
実家から送られてくる茶葉の他に兄が自ら買っている銘柄がいくつか。いくら兄の好みでも勝手には使えないから忘機は無難な青茶を選んだ。
茶杯を受け取った曦臣は「ありがとう」と微笑むけれどその顔にはやはり陰りが見えた。
お前まで気落ちするなと明玦に言われているがなかなか難題である。
#寄宿学校曦澄
ただ、今の兄には聞こえる声も届いていないのだという気がする。
意固地なところがあるのは自分だと思っていたけれど、兄にもそのような一面があったのだと忘機は初めて気付かされた。
とにかく、茶を淹れよう。
明日使う茶葉を準備しながら兄と来客の為の茶を淹れた。
実家から送られてくる茶葉の他に兄が自ら買っている銘柄がいくつか。いくら兄の好みでも勝手には使えないから忘機は無難な青茶を選んだ。
茶杯を受け取った曦臣は「ありがとう」と微笑むけれどその顔にはやはり陰りが見えた。
お前まで気落ちするなと明玦に言われているがなかなか難題である。
#寄宿学校曦澄
お腹が空いていいことなどない、というのは聶懐桑と魏無羨共通の見解だ。
今日のところは寮に帰って、それぞれ準備に取り掛かることにした。
忘機の様子から何か悟られるかと懸念はあったが、曦臣の方が弟からも距離を置いている為問題はないようだ。尤も忘機が用意するのは茶葉くらいのものだから別段日常と変わった点がある訳でもない。
それに、曦臣自身が予想していたであろう来客があったことから忘機の行動に目を向けることもないだろう。
「曦臣、しばらく顔を見ないが変わりはないか」
と、大人な気遣いの声が聞こえた。
#寄宿学校曦澄
お腹が空いていいことなどない、というのは聶懐桑と魏無羨共通の見解だ。
今日のところは寮に帰って、それぞれ準備に取り掛かることにした。
忘機の様子から何か悟られるかと懸念はあったが、曦臣の方が弟からも距離を置いている為問題はないようだ。尤も忘機が用意するのは茶葉くらいのものだから別段日常と変わった点がある訳でもない。
それに、曦臣自身が予想していたであろう来客があったことから忘機の行動に目を向けることもないだろう。
「曦臣、しばらく顔を見ないが変わりはないか」
と、大人な気遣いの声が聞こえた。
#寄宿学校曦澄
魏無羨の言葉に忘機はこくりと頷いた。
「金子軒がいればなあ、高い菓子を持ってこさせたのに」
「場所は食堂を借りる?」
「談話室なら、部屋へ行く際にちょうど前を通る」
「じゃあそこにしよう。お湯はあるよね?」
「ポットがある」
「よし。それじゃ魏兄は江兄に作戦を伝えて。まさか見捨てたりはしないよね?」
「まさかそんな」
(むしろ、その逆だと勘違いしてそうなんだけど)
「忘機兄はともかく、私や魏兄よりきっと曦臣兄さんの好みもわかるでしょう?」
「なかなかプレッシャーだな」
「普通に誘うだけでいいから」
#寄宿学校曦澄
魏無羨の言葉に忘機はこくりと頷いた。
「金子軒がいればなあ、高い菓子を持ってこさせたのに」
「場所は食堂を借りる?」
「談話室なら、部屋へ行く際にちょうど前を通る」
「じゃあそこにしよう。お湯はあるよね?」
「ポットがある」
「よし。それじゃ魏兄は江兄に作戦を伝えて。まさか見捨てたりはしないよね?」
「まさかそんな」
(むしろ、その逆だと勘違いしてそうなんだけど)
「忘機兄はともかく、私や魏兄よりきっと曦臣兄さんの好みもわかるでしょう?」
「なかなかプレッシャーだな」
「普通に誘うだけでいいから」
#寄宿学校曦澄
珍しく、聶懐桑が息巻いている。
「うちなんて運動系クラブに所属してる生徒が多いからか他の寮より肉類が多く出るのに、みんな足りなくておやつを買い貯めしてるのに」
「うちだって実家から届くのは食べ物と相場は決まってる」
手を挙げて魏無羨が言った。
「……姑蘇寮でも、皆間食くらいはしている」
「それにしたってだよ藍忘機!美味しいお菓子で盛り上がってるところを曦臣兄さんにみせつけようって作戦なのに、君ときたらちっとも食べ物に興味を持ってくれないんだもの」
必要なだけの食事は摂っているつもりの忘機はむぅ……っと黙った。
#寄宿学校曦澄
珍しく、聶懐桑が息巻いている。
「うちなんて運動系クラブに所属してる生徒が多いからか他の寮より肉類が多く出るのに、みんな足りなくておやつを買い貯めしてるのに」
「うちだって実家から届くのは食べ物と相場は決まってる」
手を挙げて魏無羨が言った。
「……姑蘇寮でも、皆間食くらいはしている」
「それにしたってだよ藍忘機!美味しいお菓子で盛り上がってるところを曦臣兄さんにみせつけようって作戦なのに、君ときたらちっとも食べ物に興味を持ってくれないんだもの」
必要なだけの食事は摂っているつもりの忘機はむぅ……っと黙った。
#寄宿学校曦澄
求められたのはそんな話ではなかったのに自分は曦臣のことを何もわからないのだから答えようがない。
薄情な後輩、だろうか。
彼の状態を知らなかったのだから心配するも何もないのだが、知ろうともしなかった。
何故、図書館に来ないのか。忙しいからだと自分を納得させて、けれど耳に入る雑音は怖くて。
あの人は俺じゃなくたっていい。
わかっているフリで本当ははっきりさせたくなかっただけだ。
俺に何かできることはあるだろうか。
今更会いに行ったところで何の意味もないかも知れないけど。
「ちゃんと食事してないと言ったな」
江澄は少し考えて部屋を出た。
#寄宿学校曦澄
求められたのはそんな話ではなかったのに自分は曦臣のことを何もわからないのだから答えようがない。
薄情な後輩、だろうか。
彼の状態を知らなかったのだから心配するも何もないのだが、知ろうともしなかった。
何故、図書館に来ないのか。忙しいからだと自分を納得させて、けれど耳に入る雑音は怖くて。
あの人は俺じゃなくたっていい。
わかっているフリで本当ははっきりさせたくなかっただけだ。
俺に何かできることはあるだろうか。
今更会いに行ったところで何の意味もないかも知れないけど。
「ちゃんと食事してないと言ったな」
江澄は少し考えて部屋を出た。
#寄宿学校曦澄
「どうした?」
「……図書館でよく顔を合わせていたのですが年明け以降は一度も」
思い上がったことを言った気がして江澄は慌てて付け加えた。
「待ち合わせていたとか、約束をしていた訳ではないのですが」
それを聞いて、そう言えば醜聞に近いような噂を耳にしたのを聶明玦は思い出した。くだらないと聞き流していたがその時点で曦臣と話せばよかったと少しだけ後悔した。
目の前の少年が孟瑶の代わりではないと曦臣は言った。自分はそれを信じた。
間違いではなかったのだろうな?曦臣。
#寄宿学校曦澄
「どうした?」
「……図書館でよく顔を合わせていたのですが年明け以降は一度も」
思い上がったことを言った気がして江澄は慌てて付け加えた。
「待ち合わせていたとか、約束をしていた訳ではないのですが」
それを聞いて、そう言えば醜聞に近いような噂を耳にしたのを聶明玦は思い出した。くだらないと聞き流していたがその時点で曦臣と話せばよかったと少しだけ後悔した。
目の前の少年が孟瑶の代わりではないと曦臣は言った。自分はそれを信じた。
間違いではなかったのだろうな?曦臣。
#寄宿学校曦澄
今更、そんな話か?
「……そうですね、おそらく」
「おそらく?」
「いえ。何でもありません」
「曦臣とは会っているか?」
「新学期に入ってからは機会がありません。演奏会もありましたし、忙しくされているのでは」
「そうか」
わかりやすく聶明玦の表情が曇る。
「あの、何かありましたか」
誰にとは、訊けなかった。だが名前を出さなくても同じことだ。
「知らないのか」
睨まれて江澄は背筋を伸ばす。
「あいつは食事もまともにせず学校にいる以外は部屋に引き篭もっているそうだ」
「えっ」
「何か変わった様子はなかったかと、尋ねたかったのだがな」
#寄宿学校曦澄
今更、そんな話か?
「……そうですね、おそらく」
「おそらく?」
「いえ。何でもありません」
「曦臣とは会っているか?」
「新学期に入ってからは機会がありません。演奏会もありましたし、忙しくされているのでは」
「そうか」
わかりやすく聶明玦の表情が曇る。
「あの、何かありましたか」
誰にとは、訊けなかった。だが名前を出さなくても同じことだ。
「知らないのか」
睨まれて江澄は背筋を伸ばす。
「あいつは食事もまともにせず学校にいる以外は部屋に引き篭もっているそうだ」
「えっ」
「何か変わった様子はなかったかと、尋ねたかったのだがな」
#寄宿学校曦澄