【アームヘッド:人限塔のハーヴェスト】
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【アームヘッド:人限塔のハーヴェスト】
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【ARMHEAD : Harvest of the Humanity Tower】

" あなたは どんな悪魔になりたいの? "

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【第15話に続く】
July 20, 2026 at 2:42 AM
身構えるよりも先に、ミアージュは唐突な侵入者、いや乱入者の背丈に驚いた。シルエットが明らかに小さい。
見ると、年若い……どころか、むしろ幼いとまで言える少女であることが解った。服装こそ小綺麗だったが、黒い艷やかな髪をまともに整えず、無造作に跳ねさせたその姿は、抱えた活発さと悩み多さを言葉よりも雄弁に語っていた。

一方、当人も部屋を開けた先に誰かがいることを予想していなかったらしく、完全に面食らった表情のまま硬直していた。
その細い片腕に提げているのは、鍵の束だった。

「「……え?」」

ふたりがどうにか喉から絞り出せた音は、まったく同じ響きだった。
July 20, 2026 at 2:40 AM
……ナフカが静かに身を起こし、ベッドから離れて部屋のドアに向かっていく。纏う雰囲気は決して明るくない。悲壮な決意にも似ている。だが、単なる失意でもない。ミアージュは止めなかった。

「……少し、外の空気を吸ってくる。何かあればすぐに呼べ。俺以外にも団員や宿の奴らが来るだろう」
「わかった。……ゆっくり、してきて」

扉の閉じる音。
然程長い間にはならないだろうが、久々にひとりになった時間に、ミアージュは静かに深呼吸した。
先ほどよりも、少し自分というものを取り戻せた感覚がある。静かに考えをまとめようか、と思った矢先だった。

ノックも無しに、ドアが唐突に開いた。
July 20, 2026 at 2:39 AM
「それが何だ!ただの道連れだ、何にもならない!」
「そうだね。何にもならない。……だからこそ。
貴方はきっと、何か意味のあることを、価値のあることをしたかったんだろうけど……私は違った。誰の、何の利益にもならない。ただ掛け値無しの気持ちが、ずっとずっと欲しかった。
そして——それをくれたのは、他でもない貴方だった。ナフカ」

……ナフカの呼吸が、動悸が止まる。
それを見たミアージュは、ベッドに突き立てられた左拳を静かに手に取り、両手で握りしめた。

「……だから。
私が初めてできる、心からの、誰かへのお返し。
私がダメになったら、お願い。
貴方は、貴方の願いを叶えて」
July 20, 2026 at 2:36 AM
「貴方は……元の、何も持ってないから無敵だった悪魔に戻りたいの?」

ミアージュの言葉に、ナフカの動悸が激しくなる。
握りしめられた左拳がもう一度叩きつけられ、しかし、それ以上何もできなかった。

「……貴方の言う通り。私は、本当は嬉しかった。
必死について行こうとする私に、しきりに振り返って、置き去りにしていないか見てくれる。そんな優しさが、嬉しかった。
……私だって気付いてた。これ、契約どうこうの話じゃないって。貴方はいつだって、誰かの幸せを台無しにしたり、不幸に巻き込むことを嫌がってた。今回だってそう。ケモノになるのは私だけで良かった筈なのに、貴方は自分を道連れにしてくれた」
July 20, 2026 at 2:34 AM
「貴方は——どんな悪魔になりたいの?」

今度は、ナフカが沈黙する番だった。
眼球が小刻みに震え、確かに受け取った質問に、どうにか答えを返そうとしている。だが、いくら待っても彼の口が開くことはなかった。

「私は……私は覚えてる。貴方が前に、聞かせてくれた願いを。
本当の悪魔になるって。私は、ずっとそれが気になってた。
悪魔になりたい理由じゃない。それは、きっと私からは触れちゃいけない事なんだって、そう思うから」

ミアージュの言葉が、静かに紡がれる。
ナフカは何も言葉を発さないまま、静かに聞いていた。

「……私が気になったのは、貴方がなりたい悪魔の姿」
July 20, 2026 at 2:31 AM
「その俺が、ようやく見つけた……俺だけの寄る辺が、武器が、"何もないこと" そのものだったのに。
お前に出会ってから、それすら失くしてしまった!
お前のせいで、振り回されて、ざわついて、苦しくなって……俺の心は、あんなにも平穏だったのに!」

ミアージュの頬に、温度のある水が垂れた。
抑え切れなくなり、ようやく溢れ出したかのように。
……それを見て、自分だったものが形を取り戻す自覚が、更に強く蘇る。
ミアージュは、唇を動かした。乖離が埋まる感覚と共に。

「……ねえ、ナフカ。
この質問は、きっとまた貴方の心を掻き乱してしまうけれど。
それでも、聞いて」
July 20, 2026 at 2:27 AM
「お前はいつもそうだ、いつもそうだった!
気付いていないとでも思っていたのか!?
お前、内心……自分が危ない目に遭って、俺が助けに入ったり、心配するのを楽しんでいただろう!」

……咄嗟に否定できる言葉は、すぐに見つからなかった。
いや。しばらくしてからも、結果は変わらなかった。
理由は明確。
紛れもなく、真実だったから。

「俺は——俺は!
……俺は、最初から何も、持っていなかった。
生まれてきた意味も、生きる理由も。
だから——他の奴らが、自分なりの幸せを見つけて。
それを大事にして生きていく姿が、何よりも羨ましかった」
July 20, 2026 at 2:24 AM
……感じたのは、衝撃。

ミアージュの視線が、横に動く。
頭のすぐ側。ベッドのマットにめり込んでいたのは、ナフカの左の拳だった。
希釈された筈の自我が、更に形を取り戻す。結果として彼女の意識は、自身が驚きで目蓋を大きく開けていることを自覚した。

「——どうしてお前は、
いつもそうやって俺の心を掻き乱すんだ!!」

誰の絶叫だったのかを理解するまで、10秒必要だった。
ベッドに手を付き、ミアージュを見下ろすような姿勢のまま、呼吸を荒げたナフカが、言葉の続きを吐いた。
July 20, 2026 at 2:21 AM
「ふざけるなよ」
July 20, 2026 at 2:19 AM
……だからこそ。
ここまで昇ってきた彼の夢を、自分の為に潰させる訳には、いかない。

「……ありがとう、そう言ってくれて。
その言葉だけで、もう充分。
私がケモノになったら、ナフカだけでも旅を続けて」

瞳を閉じ、微笑みながら。ミアージュは、悪魔の首輪を手放した。
そこで、ナフカが発する音が完全に消えた。ありとあらゆる動きが止まったのが解った。
優しい悪魔。目指すものも何もない自分には、あまりに勿体ない。
まして契約だと言うのなら、自分の破滅に付き合わせるなど。

ふと、顔に影がかかる。
ミアージュが瞼を開けると、いつの間にか、ナフカがすぐ側に立っていた。
「……ナフカ……?」
July 20, 2026 at 2:17 AM
「……ナフカは。
私がケモノになったら、一緒になってくれる?」

質の良い煉瓦で組まれた暖炉に薪を投げ込み、灰の整理をしていたナフカの背中に投げかけられたのは、唐突な問いだった。
一瞬、灰を掻く音が止まる。振り返らないまま、ナフカは暫く深い呼吸を繰り返し、そして答えた。

「久々に言葉を発したと思えば、奇妙な質問だな。
……俺の身体に移した侵食も、遅かれ早かれ進む。治療法が見つからなければ、辿る末路は同じだ。ならば契約通り、地獄の底までお前に付き合うのも悪くはないだろう」

ナフカの言葉に、ミアージュは静かに微笑んだ。
きっと彼ならそう言ってくれるという、狡い確信があった。
July 20, 2026 at 2:13 AM
July 20, 2026 at 2:11 AM
……白い狐狼。

一言で表すとすれば、そのように完結させられる、それは。
ケモノを本来受け入れない筈のトートの最中で、ふたりの青年をその真紅の眼差しに捉え、静かに間合いを詰めていた。
足元から広がる凍結。掘り出された黒土が音を立てて白く染まるのを見て、バラケルが引き攣った笑顔を浮かべた。

「……さっき、寒いことに理由なんてないって言ったよね?」
「言ったな」
「前言撤回。多分アイツだ!」
「だろうな!"全領域開放(フル・マテリアライズ)"——!」
July 20, 2026 at 2:09 AM
——次の刹那。

真っ白な闇の中から、赤い星が突如として二人を掠めた。
純白の視界を利用し、距離感を完全に麻痺させた状態からの致命の突撃。だが手応えの無さを察したのか、"それ" は地に積もった雪を盛大に跳ね飛ばしながらドリフトし、方向転換した。

咄嗟に躱したバラケルとシェニットは、空中で身を捻り、着地と同時に体制を立て直した。そして身を起こしながら、眼の前にいる "それ" の姿を、漸く明瞭に捉えた。

……極寒の大気にあってなお目立つ、白い冷気を纏う四脚。
……大氷を思わせる、寒冷色の生体結晶。
……赤い星のような、真紅の視覚センサー。
……口元に設えられた、異形の大剣。
July 20, 2026 at 2:07 AM
……バラケルの脚が、唐突に止まる。
シェニットが証拠の提示か、と身構えたものの、バラケルは驚いたような表情で眼前を見つめるだけだった。訝しみつつも、シェニットの目線はその先にあったものを見た。

少し離れた小高い丘の上に、奇妙な光源があった。
純白の世界の中で、妙に目立つ鮮やかな赤色。
一見すると赤い星のようにも見えるが、僅かな光の揺らめきが、ある程度移動する能力を持つ何かであることを無言で伝えていた。

「なんだあれ?街頭か?」
「……"召喚" の用意を、してくれ」

バラケルの声音に、抜き身の剣めいた硬質が宿った瞬間。
シェニットがその言葉の意味を急速に理解し、腕甲を構えた。
July 20, 2026 at 2:02 AM
「……こんな地獄みたいな空気、どんなにハイセンスな人でも絶対スベると思う」
バラケルが沈んだ様子で返事をする。シェニットは無言で続きを促した。

「……見ての通り、僕はムカクだ。それでまあ……色々あってね。『至天の座』に辿り着いた僕は、それまで随分と無駄にした人生、時間を取り返せるくらいの長寿を望んだんだ。まさか数千年もイケるとまでは思ってなかったし、結果自分が御伽噺になっちゃうのも予想外だった。それである頃、気付いたら、僕の真似して願いを叶えたがる人たちが増えていた。それがクライマーの始まりだった」
「……証拠とか、あるか」
「証拠……証拠かー……」
July 20, 2026 at 1:59 AM
「……それで?お前さんは何者だ?名前は聞いたが……」
「まあ……まずはそこだよね。じゃあ、聞かれたからには答えるけど……」

歩を進めながら、バラケルはコートを羽織りつつ、その先を口にした。

「僕は——君の知っているバラケルだ。
すなわち『最初のクライマー』と同一人物。今から数千年前、『塔』と伝わるこの世界を登頂して望みを叶えた男……そして今は、ちょっと色々あって、今度は別の願いを叶えてもらいたくて、また昇り直している」

……言い切った直後、冷たかった空気が更に冷え込んだ。横を見ると、シェニットの引き攣った表情があった。
「……冗談にしてはセンスが終わってる」
July 20, 2026 at 1:56 AM
「え?」
「……これから色々聞く事があるんだ。その様子じゃ、じきに唇までかじかんじまう。ウチの連中に無理やり持たされたものだが、何も羽織らないよりはマシだろう」

シェニットがすん、と鼻を鳴らすと、バラケルは自らの両手に被さったコートを静かに見やった。コートとシェニットの顔を交互に見た後、急に実感が湧いたかのように笑顔を浮かべた。
「……ありがとう」
「礼は道案内と質問への返答で頼むぜ」
「任せてくれ。前見た頃とは随分様変わりしたけど、場所は変わってない筈さ。まだ距離はあるから、ゆっくり答えよう」
July 20, 2026 at 1:54 AM
「……お前さん、見たところ温かな装備は無さそうだが、寒くないのか?」
「え?いや、全然寒いけど?」

金髪の人物……バラケルのあっけらかんとした返答に、疑問を投げかけた張本人である銀髪の人物……シェニットが思わず歩みを止め、目を見開いた。
「なんでだよ」
「寒いことに理由なんて無いじゃないか!それに僕の記憶だと、このトートは雪なんて降る区域じゃなかった筈なんだ。こうなってるって知ってさえいたら、それなりに用意したのに……ぶえっくしょい!」
ぶる、と身を震わせるバラケルの様子に、シェニットは深い溜息をひとつつくと、小脇に抱えていたコートを投げ渡した。
July 20, 2026 at 1:53 AM
「……せっかくの上昇遺構なのに、ナフカは良かったのかい?」
「今のミアちゃんの側に、アイツが居てやらないでどうする。イケてる男ってのは、こういう時に黙って野暮用を背負うもんさ」

傍から見れば他愛も無い会話のように見える言葉の投げ合いをしながら、ふたりの青年が白い世界の中を歩いていた。
片方の人物は、褐色を基調としたクライムスーツに身を包んだ銀髪。スーツの保温機能を入れたことで、少し肌寒い程度の体感で済んでいる様子だった。
もう一方は、毛先が羽衣のように遊ぶ金髪で、中性的な顔立ち。保温の類は使っていないのか、少し身体を震わせているようだった。
July 20, 2026 at 1:51 AM
July 20, 2026 at 1:50 AM