今夜も息を吐き出すだけの作業
前向きな話の入荷予定なし
皮肉は必要量のみ配置
明日の光は
こちらの都合を無視して勝手に訪れる物理現象
寝坊というエラーすら上書きして
世界は素通りしていく
期待は置いていって
ここは
夜が過ぎるのを待つだけの記録地点
本当のことを九割混ぜることじゃない
本当のことを言うときの顔で
一番どうでもいいウソを一つ混ぜるんだ
「昨日は深夜に寝た」は本当で
「白湯を飲んだ」だけを嘘にする
この無意味な一粒で
脳が勝手に相手より上の階層に立つ
自分だけの小さな秘密が
ありがたいお説教を
下々のノイズに変えてくれる
わざと目を泳がせると
奴はボクの揺らぎを見破った気になって
満足そうに頷いた
返事の代わりに
ポケットのレシートを爪で引き千切った
本当のことを九割混ぜることじゃない
本当のことを言うときの顔で
一番どうでもいいウソを一つ混ぜるんだ
「昨日は深夜に寝た」は本当で
「白湯を飲んだ」だけを嘘にする
この無意味な一粒で
脳が勝手に相手より上の階層に立つ
自分だけの小さな秘密が
ありがたいお説教を
下々のノイズに変えてくれる
わざと目を泳がせると
奴はボクの揺らぎを見破った気になって
満足そうに頷いた
返事の代わりに
ポケットのレシートを爪で引き千切った
精神が繊細だから起きるんじゃなくて
今日の自分の無能さが
バレる前に逃げ道を打つための
ずるい予防策でしかない
目覚ましより二時間早く起きることで
「あー体調最悪だわ」
という不可抗力をあらかじめ仕込み
ミスも連絡の遅れも
全部病気のせいにできる状態を確定させる
この早朝覚醒を
“深遠な恐怖と戦う可哀想なボク”
として脳内で美化する
二重の狡猾さまで巡らせておけば
完璧に責任から逃げ切れるという計算だ
そうやって
絶望の深さを演出している最中
手首のスマートウォッチは
脈拍数毎分五十八という
完全に平常な数字を冷たく表示している
精神が繊細だから起きるんじゃなくて
今日の自分の無能さが
バレる前に逃げ道を打つための
ずるい予防策でしかない
目覚ましより二時間早く起きることで
「あー体調最悪だわ」
という不可抗力をあらかじめ仕込み
ミスも連絡の遅れも
全部病気のせいにできる状態を確定させる
この早朝覚醒を
“深遠な恐怖と戦う可哀想なボク”
として脳内で美化する
二重の狡猾さまで巡らせておけば
完璧に責任から逃げ切れるという計算だ
そうやって
絶望の深さを演出している最中
手首のスマートウォッチは
脈拍数毎分五十八という
完全に平常な数字を冷たく表示している
頷いておけば
自分が悪者にならずに済むから
いつも都合よく
理解のあるふりをする
波風を立てる手間や
嫌われるリスクを
全部相手に押し付けて
自分だけ安全な位置で
評価を回収する計算
そうやって
いい人であり続けることで
相手が抱える
面倒な後始末や負担から
ずっと逃げ続けている
言い訳を飲み込んだまま
壁に預けていた背中に
ぐっと体重をかけ直した
頷いておけば
自分が悪者にならずに済むから
いつも都合よく
理解のあるふりをする
波風を立てる手間や
嫌われるリスクを
全部相手に押し付けて
自分だけ安全な位置で
評価を回収する計算
そうやって
いい人であり続けることで
相手が抱える
面倒な後始末や負担から
ずっと逃げ続けている
言い訳を飲み込んだまま
壁に預けていた背中に
ぐっと体重をかけ直した
透けたガラスみたいに僕らを閉じ込める
濡れたアスファルトに落ちた
ネオンの破片を
踏みつけないように歩いた
キミの影がすこしだけ
ボクの影をかすめて
そのまま夜のなかにほどけていく
壊したいと叫ぶ代わりに
信号の赤が静かににじんだ
誰もいない歩道橋の上で
ガラスを切り裂くような冷たさが
胸の奥でひっそりと破裂している
愛していると言えば
この街の静けさを壊してしまうから
ボクはただ呼吸を止めて
キミの視線が消えていくのをみている
破片になった言葉たちが
夜空のすきまに散らばって
誰にも聞こえない叫びのまま
とおくへ とおくへ
落ちていく
透けたガラスみたいに僕らを閉じ込める
濡れたアスファルトに落ちた
ネオンの破片を
踏みつけないように歩いた
キミの影がすこしだけ
ボクの影をかすめて
そのまま夜のなかにほどけていく
壊したいと叫ぶ代わりに
信号の赤が静かににじんだ
誰もいない歩道橋の上で
ガラスを切り裂くような冷たさが
胸の奥でひっそりと破裂している
愛していると言えば
この街の静けさを壊してしまうから
ボクはただ呼吸を止めて
キミの視線が消えていくのをみている
破片になった言葉たちが
夜空のすきまに散らばって
誰にも聞こえない叫びのまま
とおくへ とおくへ
落ちていく
復讐の正当性を組み立てながら
自販機で買った
コーラのキャップを
勢いよく捻り上げる
怒りの熱を押し殺すように
一気に流し込んだ液体が
予想を超えた冷たさで
食道の途中で痙攣を引き起こす
激しい炭酸の逆流が
鼻腔を突き抜け
脳内のロジックもろとも
盛大に路上へ噴き出す
むせ返る胸元を押さえ
涙と鼻水で
グチャグチャになった顔を
シャツの袖で
ガシガシと拭いながら
ゲップと一緒に吐き出された炭酸の泡と
路上に広がる
褐色の液体だけを見つめて硬直する
復讐の正当性を組み立てながら
自販機で買った
コーラのキャップを
勢いよく捻り上げる
怒りの熱を押し殺すように
一気に流し込んだ液体が
予想を超えた冷たさで
食道の途中で痙攣を引き起こす
激しい炭酸の逆流が
鼻腔を突き抜け
脳内のロジックもろとも
盛大に路上へ噴き出す
むせ返る胸元を押さえ
涙と鼻水で
グチャグチャになった顔を
シャツの袖で
ガシガシと拭いながら
ゲップと一緒に吐き出された炭酸の泡と
路上に広がる
褐色の液体だけを見つめて硬直する
1秒おきに一定の速度で落ちていく
手首の静脈を指で擦るたび
皮膚の下の流れがわずかに揺れ
体の内側だけが規則から外れていく
差し出された親切の数だけ
肩がすくみ
体の輪郭を薄くする動作が
いちばん体力を奪っていく
言葉より先に
存在の密度が減っていく感覚
点滴は同じ速度で
落ち続けるのに
自分のほうだけが
静かに消耗していく
外側の規則性と
内側の乱れが
同じ空間でずれたまま並んでいる
1秒おきに一定の速度で落ちていく
手首の静脈を指で擦るたび
皮膚の下の流れがわずかに揺れ
体の内側だけが規則から外れていく
差し出された親切の数だけ
肩がすくみ
体の輪郭を薄くする動作が
いちばん体力を奪っていく
言葉より先に
存在の密度が減っていく感覚
点滴は同じ速度で
落ち続けるのに
自分のほうだけが
静かに消耗していく
外側の規則性と
内側の乱れが
同じ空間でずれたまま並んでいる
丁寧な自意識が鼻につく
白湯とは
要するにただの熱湯であり
そこに白んだ精神を付け立てて
有難がるのは
一種の自己催眠に過ぎない
と冷めた思考を巡らせながら
マグカップへ湯を注ぐ
立ち上る湯気を冷笑し
自身の醒めた知性を噛み締めた刹那
一口目の湯が
上顎の粘膜を強烈に焼き焦がす
ジュッと嫌な音が頭蓋に響き
舌の表面が脱熱して
ザラザラとした異物へと変わる
高尚な批評は瞬時に霧散し
激痛に顔を歪めて冷水機へ走り
蛇口に口を寄せて下品に水を飲み干す
口内に残るのは
白湯の美学などではなく
ただただ水ぶくれを起こしかけた
上顎の鈍い痺れと
惨めな体温だけである
丁寧な自意識が鼻につく
白湯とは
要するにただの熱湯であり
そこに白んだ精神を付け立てて
有難がるのは
一種の自己催眠に過ぎない
と冷めた思考を巡らせながら
マグカップへ湯を注ぐ
立ち上る湯気を冷笑し
自身の醒めた知性を噛み締めた刹那
一口目の湯が
上顎の粘膜を強烈に焼き焦がす
ジュッと嫌な音が頭蓋に響き
舌の表面が脱熱して
ザラザラとした異物へと変わる
高尚な批評は瞬時に霧散し
激痛に顔を歪めて冷水機へ走り
蛇口に口を寄せて下品に水を飲み干す
口内に残るのは
白湯の美学などではなく
ただただ水ぶくれを起こしかけた
上顎の鈍い痺れと
惨めな体温だけである
マットレスの上で体勢を変える
綿のシーツに体重を預けるたび
布地にはゆっくりと細かい跡が刻まれていき
触れた部分のわずかな凹みとして残っていった
朝五時
アラームに合わせて起き上がり
背後の布団を見た瞬間
そこには身じろぎを繰り返した痕跡が
固まったしわとして荒く残っていた
"よく眠れた"のではない
一晩かけて布地を踏み荒らした質量が
そのままそこに残っていた
マットレスの上で体勢を変える
綿のシーツに体重を預けるたび
布地にはゆっくりと細かい跡が刻まれていき
触れた部分のわずかな凹みとして残っていった
朝五時
アラームに合わせて起き上がり
背後の布団を見た瞬間
そこには身じろぎを繰り返した痕跡が
固まったしわとして荒く残っていた
"よく眠れた"のではない
一晩かけて布地を踏み荒らした質量が
そのままそこに残っていた
鴨南蛮と名付けられた器の中に
身慣れた鶏肉が並んでいる
期待していた本物とは違うものが
差し出され
それに対して
文句ひとつ言わずに
箸を進めている自分に気づいたとき
ふと奇妙な違和感が走る
間違っているのは
目の前の料理ではなく
最初から
"客"という役割を従順に演じ続けている
自分自身の側ではないのか?
すり替えられた肉を
黙々と噛み締める口元の冷たさだけが
リアルに存在し
正しい注文を求めていたはずの意思は
あやふやにボやけていく
正しい返答も怒りも訪れないまま
ただ平然と咀嚼を続ける自分の口元と
ぬるくなっていくつゆだけがそこに残っている
鴨南蛮と名付けられた器の中に
身慣れた鶏肉が並んでいる
期待していた本物とは違うものが
差し出され
それに対して
文句ひとつ言わずに
箸を進めている自分に気づいたとき
ふと奇妙な違和感が走る
間違っているのは
目の前の料理ではなく
最初から
"客"という役割を従順に演じ続けている
自分自身の側ではないのか?
すり替えられた肉を
黙々と噛み締める口元の冷たさだけが
リアルに存在し
正しい注文を求めていたはずの意思は
あやふやにボやけていく
正しい返答も怒りも訪れないまま
ただ平然と咀嚼を続ける自分の口元と
ぬるくなっていくつゆだけがそこに残っている
ノート一面に書き殴った文字を
明るくなった部屋で読み返す
そこに並んでいるのは
支離滅裂な単語の羅列で
昨夜のボクが
高揚感の中で
何を企んでいたのかさえ思い出せない
何でも変えられると
信じ切っていた勢いはどこへ行ったのか
手元に残ったのは
汚い手書きの紙くずと
ずっしり重い疲労感だけだ
溜息をつくでもなく
ただその紙を小さく折りたたんで
ゴミ箱へ放り込む
世界は何も変わっていないし
ボクも相変わらずここにいる
氷が溶けきったグラスの底に
水滴の輪が残っている
ノート一面に書き殴った文字を
明るくなった部屋で読み返す
そこに並んでいるのは
支離滅裂な単語の羅列で
昨夜のボクが
高揚感の中で
何を企んでいたのかさえ思い出せない
何でも変えられると
信じ切っていた勢いはどこへ行ったのか
手元に残ったのは
汚い手書きの紙くずと
ずっしり重い疲労感だけだ
溜息をつくでもなく
ただその紙を小さく折りたたんで
ゴミ箱へ放り込む
世界は何も変わっていないし
ボクも相変わらずここにいる
氷が溶けきったグラスの底に
水滴の輪が残っている
と思うたび
それを
”まだ生きているからだ”
と言い換えていた
恥ずかしいと思うたび
まだここにいることだけは
わかってしまう
だから、恥ずかしさを捨てられない
捨てられないまま
また今日も自分の中に置いている
恥ずかしいと思う自分を嫌いながら
その自分だけは置いていけない
恥ずかしいと思う自分を嫌いながら
その自分がいることだけは
なぜか確認してしまう
今日も
そこに置いたままになっている
と思うたび
それを
”まだ生きているからだ”
と言い換えていた
恥ずかしいと思うたび
まだここにいることだけは
わかってしまう
だから、恥ずかしさを捨てられない
捨てられないまま
また今日も自分の中に置いている
恥ずかしいと思う自分を嫌いながら
その自分だけは置いていけない
恥ずかしいと思う自分を嫌いながら
その自分がいることだけは
なぜか確認してしまう
今日も
そこに置いたままになっている
語るということは
少なくとも不摂生というものを
口の外へ出したということで
これは少し進んだように見える
だが、その口でまた何かを口へ運ぶ
出す口と入れる口が同じなので
話は急に妙になる
不摂生を口にしているあいだに
何かを口へ運んでいる
反省しているのか
していないのか
そんなことは書かれていない
ただ
語る口があり
運ぶ動作がある
そして
その手前で立ち止まっている
何かをやめられないから
立ち止まっているのかと思ったら
そうでもない
語ることはしている
口も動いている
動いているのに
この手前で止まっている
口だけは、なかなか忙しい
語るということは
少なくとも不摂生というものを
口の外へ出したということで
これは少し進んだように見える
だが、その口でまた何かを口へ運ぶ
出す口と入れる口が同じなので
話は急に妙になる
不摂生を口にしているあいだに
何かを口へ運んでいる
反省しているのか
していないのか
そんなことは書かれていない
ただ
語る口があり
運ぶ動作がある
そして
その手前で立ち止まっている
何かをやめられないから
立ち止まっているのかと思ったら
そうでもない
語ることはしている
口も動いている
動いているのに
この手前で止まっている
口だけは、なかなか忙しい
午前四時を過ぎると
死にたいという考えが
急に
もっともらしく見えてくる
不満の提出先も
不満の内容も
わからないまま
人生の結論だけ
暗いほうへと向かっていく
参加届も
出した覚えがないのに
午前四時を過ぎると
参加していない人生にまで
口を出したくなる
数時間眠れなかっただけで
人生まで信用できなくなるくせに
そのまま
人生の最終審査に
自分を提出しようとしている
午前四時を過ぎると
死にたいという考えが
急に
もっともらしく見えてくる
不満の提出先も
不満の内容も
わからないまま
人生の結論だけ
暗いほうへと向かっていく
参加届も
出した覚えがないのに
午前四時を過ぎると
参加していない人生にまで
口を出したくなる
数時間眠れなかっただけで
人生まで信用できなくなるくせに
そのまま
人生の最終審査に
自分を提出しようとしている
ボクは何度も頷いた
"大丈夫です"と言うたび
医師の顔を確認する
帰宅して鞄を開けると
手渡された書類と
入院の案内だけが入っていた
説明の内容は何も覚えていない
身体の決定をする場所で
ボクが費やしたのは
"聞き取りやすい声で返事をする"
という作業のコストだけだった
ボクは何度も頷いた
"大丈夫です"と言うたび
医師の顔を確認する
帰宅して鞄を開けると
手渡された書類と
入院の案内だけが入っていた
説明の内容は何も覚えていない
身体の決定をする場所で
ボクが費やしたのは
"聞き取りやすい声で返事をする"
という作業のコストだけだった
人は他人の悲劇に
1つの見出しを貼りたがる
だが、
人を自殺に追いやるのは
巨大な1つの絶望ではない
仕事のミス
重い不眠
返信のない画面
足の踏み場もない洗濯物
それらが狭い部屋の中で
同じ時間に一気に重なったとき
逃げ場が消える
午前3時
鳴らないアラームの横で
天井の模様を数える
1つの物語ではなく
日常の重複が
息をする隙間を物理的に埋めていく
人は他人の悲劇に
1つの見出しを貼りたがる
だが、
人を自殺に追いやるのは
巨大な1つの絶望ではない
仕事のミス
重い不眠
返信のない画面
足の踏み場もない洗濯物
それらが狭い部屋の中で
同じ時間に一気に重なったとき
逃げ場が消える
午前3時
鳴らないアラームの横で
天井の模様を数える
1つの物語ではなく
日常の重複が
息をする隙間を物理的に埋めていく
脳内だけで空回りするゴミくずを
確実に捕らえて離さない
八割の悩みは考えすぎだという
誰かがタイムラインに捨てた
安価な正論を免罪符にして
肥大化した醜い自意識を
今夜も優しく撫でまわしている
吐き出した息が
洗面台の白い陶器に当たって消える
手首に触れた
充電端子の金属的な冷たさが
じわじわと突き刺さる
フローリングに反射する
LEDの青い光と
スリッパの底が擦れる乾いた音
不均等に繰り返される呼吸が
脳内のノイズと同期していく
パーセンテージだけが
増えていく画面を閉じて
コンセントを引き抜く
いや
今夜はブレイカーから落とそう
脳内だけで空回りするゴミくずを
確実に捕らえて離さない
八割の悩みは考えすぎだという
誰かがタイムラインに捨てた
安価な正論を免罪符にして
肥大化した醜い自意識を
今夜も優しく撫でまわしている
吐き出した息が
洗面台の白い陶器に当たって消える
手首に触れた
充電端子の金属的な冷たさが
じわじわと突き刺さる
フローリングに反射する
LEDの青い光と
スリッパの底が擦れる乾いた音
不均等に繰り返される呼吸が
脳内のノイズと同期していく
パーセンテージだけが
増えていく画面を閉じて
コンセントを引き抜く
いや
今夜はブレイカーから落とそう
スマホを握ったまま改札へ向かう
信号が青になり
横断歩道を渡るけど
歩幅は少しずつ狭くなり
前を歩く人との距離が開く
階段では一段飛ばしだった足が
一段ずつになる
ホームまであと数十メートル
通知欄には送った言葉だけが残り
足元には遅くなった歩幅だけが残る
スマホを握ったまま改札へ向かう
信号が青になり
横断歩道を渡るけど
歩幅は少しずつ狭くなり
前を歩く人との距離が開く
階段では一段飛ばしだった足が
一段ずつになる
ホームまであと数十メートル
通知欄には送った言葉だけが残り
足元には遅くなった歩幅だけが残る
"どうしても外に出られない"
と告げると
医師は手元の端末に
"適応障害・要安静"
と打ち込み
処方箋を印刷する
紙を受け取り薬局で薬をもらう
提示したはずの身体の激しい拒絶は
分類コードと
投与スケジュールの数字へ変換され
指定された日付に
通院を繰り返す工程へと組み込まれる
言葉とは
個人の内にある苦痛を
解明する道具ではなく
社会という
巨大なシステムが
エラーを出さずに処理するための
データ変換器だ
"どうしても外に出られない"
と告げると
医師は手元の端末に
"適応障害・要安静"
と打ち込み
処方箋を印刷する
紙を受け取り薬局で薬をもらう
提示したはずの身体の激しい拒絶は
分類コードと
投与スケジュールの数字へ変換され
指定された日付に
通院を繰り返す工程へと組み込まれる
言葉とは
個人の内にある苦痛を
解明する道具ではなく
社会という
巨大なシステムが
エラーを出さずに処理するための
データ変換器だ
相談窓口の番号が表示される
親指は通話ボタンを押さず
電源キーを長押しする
光が消えた画面には
誰からの通知も届かず
暗いガラスに
自分の輪郭だけが映る
画面の向こうに
どれだけ番号が並んでいても
本当に苦しい時に
自分の部屋まで届く手はない
あの番号は救うためにあるのではなく
“救助窓口は用意していた”
という国や企業の
責任逃れのために置かれたポーズに過ぎない
画面が暗転した瞬間
人は自分が完璧に一人であることを
突きつけられる
相談窓口の番号が表示される
親指は通話ボタンを押さず
電源キーを長押しする
光が消えた画面には
誰からの通知も届かず
暗いガラスに
自分の輪郭だけが映る
画面の向こうに
どれだけ番号が並んでいても
本当に苦しい時に
自分の部屋まで届く手はない
あの番号は救うためにあるのではなく
“救助窓口は用意していた”
という国や企業の
責任逃れのために置かれたポーズに過ぎない
画面が暗転した瞬間
人は自分が完璧に一人であることを
突きつけられる
“体調配慮に関する確認書”が置かれ
ペンが差し出される
サインが記入された瞬間に
書類は格納され
翌朝、タイムカードのラックから
ボクのカードが消え
別のカードが挿し込まれる
デスクの引き出しの底で
バラけたクリップが音を立て
社内チャットの送信者名は
“削除されたユーザー”へ変わる
“お体に気をつけて”の声と同時に
入館カードが回収され、自動ドアが開く
体調や痛みの訴えを
”配慮”という書類で
回収し処理する行為は
会社が手を汚さずに
異物を消去する静かなシステムだ
“体調配慮に関する確認書”が置かれ
ペンが差し出される
サインが記入された瞬間に
書類は格納され
翌朝、タイムカードのラックから
ボクのカードが消え
別のカードが挿し込まれる
デスクの引き出しの底で
バラけたクリップが音を立て
社内チャットの送信者名は
“削除されたユーザー”へ変わる
“お体に気をつけて”の声と同時に
入館カードが回収され、自動ドアが開く
体調や痛みの訴えを
”配慮”という書類で
回収し処理する行為は
会社が手を汚さずに
異物を消去する静かなシステムだ
床の拭き掃除を繰り返す
缶の空き口に残った数滴の液体が
フローリングへ垂れ
雑巾の手応えを重くする
現実の思考を止めるために
胃へ流し込んだアルコールは
肉体の処理能力を超えた瞬間に
激しい嘔吐反応を起こし
摂取前よりも
凄まじい疲労感だけを骨に刻む
忘れたかったはずの記憶や不安は
1ミリも摩耗せず
アルコールを分解するために
消費された水分のせいで
喉の乾きだけが激しくなる
逃避のための飲酒とは
苦痛を消去する行為ではない
明日払うはずの体力を前払いし
買い取った苦痛を
その日のうちに前倒しで回収する処理に過ぎない
床の拭き掃除を繰り返す
缶の空き口に残った数滴の液体が
フローリングへ垂れ
雑巾の手応えを重くする
現実の思考を止めるために
胃へ流し込んだアルコールは
肉体の処理能力を超えた瞬間に
激しい嘔吐反応を起こし
摂取前よりも
凄まじい疲労感だけを骨に刻む
忘れたかったはずの記憶や不安は
1ミリも摩耗せず
アルコールを分解するために
消費された水分のせいで
喉の乾きだけが激しくなる
逃避のための飲酒とは
苦痛を消去する行為ではない
明日払うはずの体力を前払いし
買い取った苦痛を
その日のうちに前倒しで回収する処理に過ぎない
理由を聞かれる
“また今度”と言えば
予定を決め直すことになる
だから断らず
頼まれたことは引き受けてきた
返信もすぐ返した
相手の予定が変わらないように
自分の予定を何度も後ろへ動かした
病院の予約の日も
頼まれれば時間をずらした
自分の用事なら後回しにしても
誰も困らない
“ちゃんと生きる”と決めた結果
最後まで守らなかったのが
自分との約束になった
理由を聞かれる
“また今度”と言えば
予定を決め直すことになる
だから断らず
頼まれたことは引き受けてきた
返信もすぐ返した
相手の予定が変わらないように
自分の予定を何度も後ろへ動かした
病院の予約の日も
頼まれれば時間をずらした
自分の用事なら後回しにしても
誰も困らない
“ちゃんと生きる”と決めた結果
最後まで守らなかったのが
自分との約束になった
ボールペンでびっしりと
予定を書き込み
余白を定規で区切って
タスクの数字を埋める
開いたMacのチャット画面に
カーソルを置いたまま
1文字も打ち込まずに画面を閉じ
キャビネットから
分厚いバインダーを取り出して
卓上の右端へ隙間なく積み上げる
誰の画面にも
助けを求める文字を送信せず
自分ひとりの卓上だけに
処理不能な紙の山を固定する動作
これは追い詰められた悲劇ではない
仕事を他人に分配して
不手際が生じた際の
責任や叱責を回避し
破綻した瞬間に
"これだけ一人で抱えていた"
と言い切るための無罪の証拠を
机の上に物理構築している
ボールペンでびっしりと
予定を書き込み
余白を定規で区切って
タスクの数字を埋める
開いたMacのチャット画面に
カーソルを置いたまま
1文字も打ち込まずに画面を閉じ
キャビネットから
分厚いバインダーを取り出して
卓上の右端へ隙間なく積み上げる
誰の画面にも
助けを求める文字を送信せず
自分ひとりの卓上だけに
処理不能な紙の山を固定する動作
これは追い詰められた悲劇ではない
仕事を他人に分配して
不手際が生じた際の
責任や叱責を回避し
破綻した瞬間に
"これだけ一人で抱えていた"
と言い切るための無罪の証拠を
机の上に物理構築している
端のページを
そっと開き
ペン先を
紙に落とす準備だけが進む
インクはまだ走らず
ページは
折り目の浅いまま閉じられる
机の隅に
滑らせたノートは
触れられない日だけ
紙の色がくすむ
書き出す動作より
誰にも
読まれない位置を
確保する配置が
優先される
言葉を残すより
痕跡を見られない形を
選ぶ計算が静かに滲む
端のページを
そっと開き
ペン先を
紙に落とす準備だけが進む
インクはまだ走らず
ページは
折り目の浅いまま閉じられる
机の隅に
滑らせたノートは
触れられない日だけ
紙の色がくすむ
書き出す動作より
誰にも
読まれない位置を
確保する配置が
優先される
言葉を残すより
痕跡を見られない形を
選ぶ計算が静かに滲む