夕食の下準備中、隣でじゃがいもの皮むきをする加州くんがこちらを見上げた。
「何が?」
「本能寺に出陣ってやつ」
「…ああ」
その件か、と応えた僕の反応に、加州くんがやや鼻息を荒くする。
「なんだよ、心配じゃないの!?」
「…僕がどうこう言うことではないし」
「でも、なんかあるだろ、なんかさ!」
言いたいことはわかるけれど、と僕は困ってしまう。
「余計なことは言わないよ。彼が自分で向き合うことだし、彼は変に気を使われる方が嫌だと思う」
「なんだよ、それ。僕は彼のことわかってますよ、って?」
「どうだろうね」
その答えに、加州くんが僕の脛を蹴り上げ、僕は蹲ることになった。
部屋の隅で膝を抱えた彼の前に、お茶と茶菓子を並べる。
それから、少し離れて座り、本を開く。
そのまま数ページを捲ったところで、ぽつりと「聞かないのか」と声がした。
そちらを見やれば、彼は膝に顔を埋めたままだ。
「聞いてほしい?」
「…いや」
「じゃあ話さなくていいよ」
そう返し、再び本に視線を戻す。
彼は小さく鼻をすすった。
詳細は聞いていないが、今日の出陣は随分不満な結果に終わったらしい。歌仙くんが「悪いが、あとは頼むよ」と苦笑いしていた。
顕現して間もなく、戦果を焦っているのは知っている。
こういうことは、皆がぶつかる通過儀礼だ。
彼の気が済むまで、僕は側で待ち続ける。
彼が差し出した指先に挟まれた紙に、見覚えがなく僕は首を傾げる。
「えっ、それ僕が落とした?」
「お前から落ちたように見えたが」
「…うーん?どうもありがとう」
身に覚えが無くとも、彼がそう言うならそうなのだろうと受け取る。
紙だ、と思ったものは手のひらに収まるほど小さな便箋だった。それこそ、短刀たちが好みそうな。
誰かのイタズラだろうか、とそれを開く間に拾ってくれた長谷部くんの背中は廊下の曲がり角から消えていく。
なんだろう。小さな紙を開くと、そこには「お慕いしております」の一文。
丁寧に彼の署名入りで。
「長谷部くん!!」
思わぬことに僕は慌てて駆け出した。
夕食の下準備中、隣でじゃがいもの皮むきをする加州くんがこちらを見上げた。
「何が?」
「本能寺に出陣ってやつ」
「…ああ」
その件か、と応えた僕の反応に、加州くんがやや鼻息を荒くする。
「なんだよ、心配じゃないの!?」
「…僕がどうこう言うことではないし」
「でも、なんかあるだろ、なんかさ!」
言いたいことはわかるけれど、と僕は困ってしまう。
「余計なことは言わないよ。彼が自分で向き合うことだし、彼は変に気を使われる方が嫌だと思う」
「なんだよ、それ。僕は彼のことわかってますよ、って?」
「どうだろうね」
その答えに、加州くんが僕の脛を蹴り上げ、僕は蹲ることになった。
部屋の隅で膝を抱えた彼の前に、お茶と茶菓子を並べる。
それから、少し離れて座り、本を開く。
そのまま数ページを捲ったところで、ぽつりと「聞かないのか」と声がした。
そちらを見やれば、彼は膝に顔を埋めたままだ。
「聞いてほしい?」
「…いや」
「じゃあ話さなくていいよ」
そう返し、再び本に視線を戻す。
彼は小さく鼻をすすった。
詳細は聞いていないが、今日の出陣は随分不満な結果に終わったらしい。歌仙くんが「悪いが、あとは頼むよ」と苦笑いしていた。
顕現して間もなく、戦果を焦っているのは知っている。
こういうことは、皆がぶつかる通過儀礼だ。
彼の気が済むまで、僕は側で待ち続ける。
彼が差し出した指先に挟まれた紙に、見覚えがなく僕は首を傾げる。
「えっ、それ僕が落とした?」
「お前から落ちたように見えたが」
「…うーん?どうもありがとう」
身に覚えが無くとも、彼がそう言うならそうなのだろうと受け取る。
紙だ、と思ったものは手のひらに収まるほど小さな便箋だった。それこそ、短刀たちが好みそうな。
誰かのイタズラだろうか、とそれを開く間に拾ってくれた長谷部くんの背中は廊下の曲がり角から消えていく。
なんだろう。小さな紙を開くと、そこには「お慕いしております」の一文。
丁寧に彼の署名入りで。
「長谷部くん!!」
思わぬことに僕は慌てて駆け出した。
拾い上げ、丁寧に開くとぽつぽつと今日あった出来事が書いてある。
明日は僕の番だ。
僕と長谷部くんの住まう部屋は別棟にある。そして、窓を開けると意外と近いと気づいたのはいつだったか。
面白がった僕が彼の部屋へ紙飛行機を投げ入れ、それに彼がなぜか書き入れをしてお繰り返したことがきっかけで、こうして他愛もないことを書いては送り合う交換日記のようなことを続けている。
毎日お互いに日々の出来事をしたためて送り合う。
日中は、そんなことをおくびにも出さず。
どうかいつまでも、このことを誰にも知られませんように、と祈りながら日々思いを込めた紙を折る。
部屋の隅で膝を抱えた彼の前に、お茶と茶菓子を並べる。
それから、少し離れて座り、本を開く。
そのまま数ページを捲ったところで、ぽつりと「聞かないのか」と声がした。
そちらを見やれば、彼は膝に顔を埋めたままだ。
「聞いてほしい?」
「…いや」
「じゃあ話さなくていいよ」
そう返し、再び本に視線を戻す。
彼は小さく鼻をすすった。
詳細は聞いていないが、今日の出陣は随分不満な結果に終わったらしい。歌仙くんが「悪いが、あとは頼むよ」と苦笑いしていた。
顕現して間もなく、戦果を焦っているのは知っている。
こういうことは、皆がぶつかる通過儀礼だ。
彼の気が済むまで、僕は側で待ち続ける。
彼が差し出した指先に挟まれた紙に、見覚えがなく僕は首を傾げる。
「えっ、それ僕が落とした?」
「お前から落ちたように見えたが」
「…うーん?どうもありがとう」
身に覚えが無くとも、彼がそう言うならそうなのだろうと受け取る。
紙だ、と思ったものは手のひらに収まるほど小さな便箋だった。それこそ、短刀たちが好みそうな。
誰かのイタズラだろうか、とそれを開く間に拾ってくれた長谷部くんの背中は廊下の曲がり角から消えていく。
なんだろう。小さな紙を開くと、そこには「お慕いしております」の一文。
丁寧に彼の署名入りで。
「長谷部くん!!」
思わぬことに僕は慌てて駆け出した。
拾い上げ、丁寧に開くとぽつぽつと今日あった出来事が書いてある。
明日は僕の番だ。
僕と長谷部くんの住まう部屋は別棟にある。そして、窓を開けると意外と近いと気づいたのはいつだったか。
面白がった僕が彼の部屋へ紙飛行機を投げ入れ、それに彼がなぜか書き入れをしてお繰り返したことがきっかけで、こうして他愛もないことを書いては送り合う交換日記のようなことを続けている。
毎日お互いに日々の出来事をしたためて送り合う。
日中は、そんなことをおくびにも出さず。
どうかいつまでも、このことを誰にも知られませんように、と祈りながら日々思いを込めた紙を折る。
「ええ?そんな顔してないよ、ひどいな」
「見られたらやりにくい」
「ごめんごめん」
顕現したばかりの彼が、上手にできるかと気になってつい食事の様子を見つめてしまっていた。
与えられたばかりの体では、箸を持つのも一苦労だ。
「この指をこうしたらいいよ」
「うるさい、だから見るなと言っている」
「はいはい。ごめんごめん」
わざとらしく顔を背けると、彼はふん、と一つ大きく息をついて再び膳に向き合う。練習のため、膳には掴みにくいものが多い。豆の煮付け、豆腐、焼き魚。
横目でちらりと窺うと、真剣な顔で箸と料理に向き合う姿がかわいらしくて、僕は気づかれないように笑った。
彼が差し出した指先に挟まれた紙に、見覚えがなく僕は首を傾げる。
「えっ、それ僕が落とした?」
「お前から落ちたように見えたが」
「…うーん?どうもありがとう」
身に覚えが無くとも、彼がそう言うならそうなのだろうと受け取る。
紙だ、と思ったものは手のひらに収まるほど小さな便箋だった。それこそ、短刀たちが好みそうな。
誰かのイタズラだろうか、とそれを開く間に拾ってくれた長谷部くんの背中は廊下の曲がり角から消えていく。
なんだろう。小さな紙を開くと、そこには「お慕いしております」の一文。
丁寧に彼の署名入りで。
「長谷部くん!!」
思わぬことに僕は慌てて駆け出した。
拾い上げ、丁寧に開くとぽつぽつと今日あった出来事が書いてある。
明日は僕の番だ。
僕と長谷部くんの住まう部屋は別棟にある。そして、窓を開けると意外と近いと気づいたのはいつだったか。
面白がった僕が彼の部屋へ紙飛行機を投げ入れ、それに彼がなぜか書き入れをしてお繰り返したことがきっかけで、こうして他愛もないことを書いては送り合う交換日記のようなことを続けている。
毎日お互いに日々の出来事をしたためて送り合う。
日中は、そんなことをおくびにも出さず。
どうかいつまでも、このことを誰にも知られませんように、と祈りながら日々思いを込めた紙を折る。
「ええ?そんな顔してないよ、ひどいな」
「見られたらやりにくい」
「ごめんごめん」
顕現したばかりの彼が、上手にできるかと気になってつい食事の様子を見つめてしまっていた。
与えられたばかりの体では、箸を持つのも一苦労だ。
「この指をこうしたらいいよ」
「うるさい、だから見るなと言っている」
「はいはい。ごめんごめん」
わざとらしく顔を背けると、彼はふん、と一つ大きく息をついて再び膳に向き合う。練習のため、膳には掴みにくいものが多い。豆の煮付け、豆腐、焼き魚。
横目でちらりと窺うと、真剣な顔で箸と料理に向き合う姿がかわいらしくて、僕は気づかれないように笑った。
相打ちなんて格好悪いな。
でも、他の皆が折れなくてよかった。
大の字でそのまま空を見上げる。
澄み切った青空だ。雲一つない。
いい日だ。最期に見るにはちょうどいい空だ。
何年も前に先にいってしまった彼にようやく会えるのか。
僕はやりきった。これならきっと快く迎えてくれるはずだ。
「燭台切さん…!」
駆け寄ってくる足音と声を聞きながら、僕は目を閉じる。
随分と寒いけれど、不思議といい気分だ。
何も不安はない。満身創痍であろうと、彼らは帰れる。
今いくよ、長谷部くん。
きっと待ってくれていると信じているから。
どうか笑顔で迎えてくれよ。
拾い上げ、丁寧に開くとぽつぽつと今日あった出来事が書いてある。
明日は僕の番だ。
僕と長谷部くんの住まう部屋は別棟にある。そして、窓を開けると意外と近いと気づいたのはいつだったか。
面白がった僕が彼の部屋へ紙飛行機を投げ入れ、それに彼がなぜか書き入れをしてお繰り返したことがきっかけで、こうして他愛もないことを書いては送り合う交換日記のようなことを続けている。
毎日お互いに日々の出来事をしたためて送り合う。
日中は、そんなことをおくびにも出さず。
どうかいつまでも、このことを誰にも知られませんように、と祈りながら日々思いを込めた紙を折る。
「ええ?そんな顔してないよ、ひどいな」
「見られたらやりにくい」
「ごめんごめん」
顕現したばかりの彼が、上手にできるかと気になってつい食事の様子を見つめてしまっていた。
与えられたばかりの体では、箸を持つのも一苦労だ。
「この指をこうしたらいいよ」
「うるさい、だから見るなと言っている」
「はいはい。ごめんごめん」
わざとらしく顔を背けると、彼はふん、と一つ大きく息をついて再び膳に向き合う。練習のため、膳には掴みにくいものが多い。豆の煮付け、豆腐、焼き魚。
横目でちらりと窺うと、真剣な顔で箸と料理に向き合う姿がかわいらしくて、僕は気づかれないように笑った。
相打ちなんて格好悪いな。
でも、他の皆が折れなくてよかった。
大の字でそのまま空を見上げる。
澄み切った青空だ。雲一つない。
いい日だ。最期に見るにはちょうどいい空だ。
何年も前に先にいってしまった彼にようやく会えるのか。
僕はやりきった。これならきっと快く迎えてくれるはずだ。
「燭台切さん…!」
駆け寄ってくる足音と声を聞きながら、僕は目を閉じる。
随分と寒いけれど、不思議といい気分だ。
何も不安はない。満身創痍であろうと、彼らは帰れる。
今いくよ、長谷部くん。
きっと待ってくれていると信じているから。
どうか笑顔で迎えてくれよ。
休職します?あれできてません、これできてません、あとよろしくお願いします。そんなことで許されていいのか?最低限果たすべき責任はあるのでは?
ぐっとこらえて一つずつ内容を確認していく。どこにもぶつけられない怒りだけを腹の中に溜め込んで。
「お疲れ」
「うわ!」
見れば、客先から帰ってきた長谷部くんが缶コーヒーを僕の頬にくっつけていた。
「聞いた」
「え?」
「大量に押し付けられたらしいな?」
缶を僕のデスクに置くと、席につきながら苦笑する。
「いくらか寄越せ、俺もやる」
「え、でも」
「礼はお前の飯でいいぞ」
その笑顔に、彼に後光が見えた気がした。
「ええ?そんな顔してないよ、ひどいな」
「見られたらやりにくい」
「ごめんごめん」
顕現したばかりの彼が、上手にできるかと気になってつい食事の様子を見つめてしまっていた。
与えられたばかりの体では、箸を持つのも一苦労だ。
「この指をこうしたらいいよ」
「うるさい、だから見るなと言っている」
「はいはい。ごめんごめん」
わざとらしく顔を背けると、彼はふん、と一つ大きく息をついて再び膳に向き合う。練習のため、膳には掴みにくいものが多い。豆の煮付け、豆腐、焼き魚。
横目でちらりと窺うと、真剣な顔で箸と料理に向き合う姿がかわいらしくて、僕は気づかれないように笑った。
相打ちなんて格好悪いな。
でも、他の皆が折れなくてよかった。
大の字でそのまま空を見上げる。
澄み切った青空だ。雲一つない。
いい日だ。最期に見るにはちょうどいい空だ。
何年も前に先にいってしまった彼にようやく会えるのか。
僕はやりきった。これならきっと快く迎えてくれるはずだ。
「燭台切さん…!」
駆け寄ってくる足音と声を聞きながら、僕は目を閉じる。
随分と寒いけれど、不思議といい気分だ。
何も不安はない。満身創痍であろうと、彼らは帰れる。
今いくよ、長谷部くん。
きっと待ってくれていると信じているから。
どうか笑顔で迎えてくれよ。
休職します?あれできてません、これできてません、あとよろしくお願いします。そんなことで許されていいのか?最低限果たすべき責任はあるのでは?
ぐっとこらえて一つずつ内容を確認していく。どこにもぶつけられない怒りだけを腹の中に溜め込んで。
「お疲れ」
「うわ!」
見れば、客先から帰ってきた長谷部くんが缶コーヒーを僕の頬にくっつけていた。
「聞いた」
「え?」
「大量に押し付けられたらしいな?」
缶を僕のデスクに置くと、席につきながら苦笑する。
「いくらか寄越せ、俺もやる」
「え、でも」
「礼はお前の飯でいいぞ」
その笑顔に、彼に後光が見えた気がした。
そんな声を聞き、僕は立ち上がった。
飛び込んだ先にいたのは、見慣れた髪色の―
「長谷部くん!」
思わず声が出て、皆が驚いて振り返るが、彼もまた驚いた顔をしていた。
その手を取ると、確かに薬指がない。
「うれしい、約束通りだ」
そう呟いた僕に「お前、指…」と怒った顔で僕の左手を握る。
「大丈夫」
僕は手袋を外し、義指を取って見せる。
「お前がすぐ気づくようにって俺はそのままにしてたのに…」
「ごめん、でも嬉しい」
ずっと一緒だよ、って君と切り落として交換した薬指。
生まれ変わってなお、約束通り僕たちの薬指はない。何度、生まれ変わっても。
相打ちなんて格好悪いな。
でも、他の皆が折れなくてよかった。
大の字でそのまま空を見上げる。
澄み切った青空だ。雲一つない。
いい日だ。最期に見るにはちょうどいい空だ。
何年も前に先にいってしまった彼にようやく会えるのか。
僕はやりきった。これならきっと快く迎えてくれるはずだ。
「燭台切さん…!」
駆け寄ってくる足音と声を聞きながら、僕は目を閉じる。
随分と寒いけれど、不思議といい気分だ。
何も不安はない。満身創痍であろうと、彼らは帰れる。
今いくよ、長谷部くん。
きっと待ってくれていると信じているから。
どうか笑顔で迎えてくれよ。
休職します?あれできてません、これできてません、あとよろしくお願いします。そんなことで許されていいのか?最低限果たすべき責任はあるのでは?
ぐっとこらえて一つずつ内容を確認していく。どこにもぶつけられない怒りだけを腹の中に溜め込んで。
「お疲れ」
「うわ!」
見れば、客先から帰ってきた長谷部くんが缶コーヒーを僕の頬にくっつけていた。
「聞いた」
「え?」
「大量に押し付けられたらしいな?」
缶を僕のデスクに置くと、席につきながら苦笑する。
「いくらか寄越せ、俺もやる」
「え、でも」
「礼はお前の飯でいいぞ」
その笑顔に、彼に後光が見えた気がした。
そんな声を聞き、僕は立ち上がった。
飛び込んだ先にいたのは、見慣れた髪色の―
「長谷部くん!」
思わず声が出て、皆が驚いて振り返るが、彼もまた驚いた顔をしていた。
その手を取ると、確かに薬指がない。
「うれしい、約束通りだ」
そう呟いた僕に「お前、指…」と怒った顔で僕の左手を握る。
「大丈夫」
僕は手袋を外し、義指を取って見せる。
「お前がすぐ気づくようにって俺はそのままにしてたのに…」
「ごめん、でも嬉しい」
ずっと一緒だよ、って君と切り落として交換した薬指。
生まれ変わってなお、約束通り僕たちの薬指はない。何度、生まれ変わっても。
「ん…」
連日の出陣で疲れていたか、珍しく飲みの席で長谷部くんが酔い潰れた。彼に肩を貸していると背後から「送り狼か~?」などと言われて僕は首を傾げた。
「送り狼?」
「…付き合ってるんだろ?」
「付き合って…まあ、僕は長谷部くんが好きだけど」
「……」
微妙な空気になって、僕は再び首を傾げる。宴席にいた他の刀も微妙な顔をしている。
「触りたいとか、抱きたいとか、そういうのねえの?」
誰かの声に、三度首を傾げる。
「酔いつぶれたから送っていくだけだけど」
「…まあまあ。長谷部のことは頼んだぜ、光坊!」
急に差し込まれた鶴さんの声に、よくわからないまま僕は頷くしかなかった。
休職します?あれできてません、これできてません、あとよろしくお願いします。そんなことで許されていいのか?最低限果たすべき責任はあるのでは?
ぐっとこらえて一つずつ内容を確認していく。どこにもぶつけられない怒りだけを腹の中に溜め込んで。
「お疲れ」
「うわ!」
見れば、客先から帰ってきた長谷部くんが缶コーヒーを僕の頬にくっつけていた。
「聞いた」
「え?」
「大量に押し付けられたらしいな?」
缶を僕のデスクに置くと、席につきながら苦笑する。
「いくらか寄越せ、俺もやる」
「え、でも」
「礼はお前の飯でいいぞ」
その笑顔に、彼に後光が見えた気がした。
そんな声を聞き、僕は立ち上がった。
飛び込んだ先にいたのは、見慣れた髪色の―
「長谷部くん!」
思わず声が出て、皆が驚いて振り返るが、彼もまた驚いた顔をしていた。
その手を取ると、確かに薬指がない。
「うれしい、約束通りだ」
そう呟いた僕に「お前、指…」と怒った顔で僕の左手を握る。
「大丈夫」
僕は手袋を外し、義指を取って見せる。
「お前がすぐ気づくようにって俺はそのままにしてたのに…」
「ごめん、でも嬉しい」
ずっと一緒だよ、って君と切り落として交換した薬指。
生まれ変わってなお、約束通り僕たちの薬指はない。何度、生まれ変わっても。
「ん…」
連日の出陣で疲れていたか、珍しく飲みの席で長谷部くんが酔い潰れた。彼に肩を貸していると背後から「送り狼か~?」などと言われて僕は首を傾げた。
「送り狼?」
「…付き合ってるんだろ?」
「付き合って…まあ、僕は長谷部くんが好きだけど」
「……」
微妙な空気になって、僕は再び首を傾げる。宴席にいた他の刀も微妙な顔をしている。
「触りたいとか、抱きたいとか、そういうのねえの?」
誰かの声に、三度首を傾げる。
「酔いつぶれたから送っていくだけだけど」
「…まあまあ。長谷部のことは頼んだぜ、光坊!」
急に差し込まれた鶴さんの声に、よくわからないまま僕は頷くしかなかった。
厨で、出来立ての芋きんとんをいの一番に頬張りながら、そう言った長谷部くん。
僕が反応するより早く、隣にいた歌仙くんが吹き出した。
「…なんだ?」
「いや、なんでもない」
背を向けて笑いをこらえる彼を見ながら、僕はやれやれと洗い物に手を付ける。
うまかった、と颯爽と去っていった彼に歌仙くんは出入り口を見ながら「君も大変だなあ」と笑って言った。
「言わないのかい?君のためだよって」
「言わないけど…まさかここまで伝わってないとは思わなかったな」
「少しくらい恩に着せればいいのに」
「格好悪いじゃないか」
「そんなだから伝わらないんだ」
手痛い言葉だ。
そんな声を聞き、僕は立ち上がった。
飛び込んだ先にいたのは、見慣れた髪色の―
「長谷部くん!」
思わず声が出て、皆が驚いて振り返るが、彼もまた驚いた顔をしていた。
その手を取ると、確かに薬指がない。
「うれしい、約束通りだ」
そう呟いた僕に「お前、指…」と怒った顔で僕の左手を握る。
「大丈夫」
僕は手袋を外し、義指を取って見せる。
「お前がすぐ気づくようにって俺はそのままにしてたのに…」
「ごめん、でも嬉しい」
ずっと一緒だよ、って君と切り落として交換した薬指。
生まれ変わってなお、約束通り僕たちの薬指はない。何度、生まれ変わっても。
「ん…」
連日の出陣で疲れていたか、珍しく飲みの席で長谷部くんが酔い潰れた。彼に肩を貸していると背後から「送り狼か~?」などと言われて僕は首を傾げた。
「送り狼?」
「…付き合ってるんだろ?」
「付き合って…まあ、僕は長谷部くんが好きだけど」
「……」
微妙な空気になって、僕は再び首を傾げる。宴席にいた他の刀も微妙な顔をしている。
「触りたいとか、抱きたいとか、そういうのねえの?」
誰かの声に、三度首を傾げる。
「酔いつぶれたから送っていくだけだけど」
「…まあまあ。長谷部のことは頼んだぜ、光坊!」
急に差し込まれた鶴さんの声に、よくわからないまま僕は頷くしかなかった。
厨で、出来立ての芋きんとんをいの一番に頬張りながら、そう言った長谷部くん。
僕が反応するより早く、隣にいた歌仙くんが吹き出した。
「…なんだ?」
「いや、なんでもない」
背を向けて笑いをこらえる彼を見ながら、僕はやれやれと洗い物に手を付ける。
うまかった、と颯爽と去っていった彼に歌仙くんは出入り口を見ながら「君も大変だなあ」と笑って言った。
「言わないのかい?君のためだよって」
「言わないけど…まさかここまで伝わってないとは思わなかったな」
「少しくらい恩に着せればいいのに」
「格好悪いじゃないか」
「そんなだから伝わらないんだ」
手痛い言葉だ。
彼の本来の下緒は赤色だ。
その色はまるで。
そこまで考えて、彼と目があった。
彼は僕に気づくと、薄く笑って、去っていった。
なんとなく、彼の巻いている下げ緒は燭台切光忠のものだと確信した。
根拠はない。だけど、この世に生まれ落ちてからずっと目にし続けているそれを見間違うはずなどないのだ。
そして、彼の向けた顔が。
懐かしむような、自嘲するような、それでいて優しいような。
何が言えるわけでもないけど、たった一度見かけただけの彼に会いたくて僕はそれから難度も万屋街に出向いている。
同じ顔をした刀たちが行き交う中を、僕は何度も彷徨っている。
「ん…」
連日の出陣で疲れていたか、珍しく飲みの席で長谷部くんが酔い潰れた。彼に肩を貸していると背後から「送り狼か~?」などと言われて僕は首を傾げた。
「送り狼?」
「…付き合ってるんだろ?」
「付き合って…まあ、僕は長谷部くんが好きだけど」
「……」
微妙な空気になって、僕は再び首を傾げる。宴席にいた他の刀も微妙な顔をしている。
「触りたいとか、抱きたいとか、そういうのねえの?」
誰かの声に、三度首を傾げる。
「酔いつぶれたから送っていくだけだけど」
「…まあまあ。長谷部のことは頼んだぜ、光坊!」
急に差し込まれた鶴さんの声に、よくわからないまま僕は頷くしかなかった。
厨で、出来立ての芋きんとんをいの一番に頬張りながら、そう言った長谷部くん。
僕が反応するより早く、隣にいた歌仙くんが吹き出した。
「…なんだ?」
「いや、なんでもない」
背を向けて笑いをこらえる彼を見ながら、僕はやれやれと洗い物に手を付ける。
うまかった、と颯爽と去っていった彼に歌仙くんは出入り口を見ながら「君も大変だなあ」と笑って言った。
「言わないのかい?君のためだよって」
「言わないけど…まさかここまで伝わってないとは思わなかったな」
「少しくらい恩に着せればいいのに」
「格好悪いじゃないか」
「そんなだから伝わらないんだ」
手痛い言葉だ。
彼の本来の下緒は赤色だ。
その色はまるで。
そこまで考えて、彼と目があった。
彼は僕に気づくと、薄く笑って、去っていった。
なんとなく、彼の巻いている下げ緒は燭台切光忠のものだと確信した。
根拠はない。だけど、この世に生まれ落ちてからずっと目にし続けているそれを見間違うはずなどないのだ。
そして、彼の向けた顔が。
懐かしむような、自嘲するような、それでいて優しいような。
何が言えるわけでもないけど、たった一度見かけただけの彼に会いたくて僕はそれから難度も万屋街に出向いている。
同じ顔をした刀たちが行き交う中を、僕は何度も彷徨っている。
卒業式の後、解散の前に二人でちょっと話がしたいと呼び出した彼は今更何を、という顔で立っている。
「長谷部くんが好きだよ。恋愛的な意味で」
「…………は?」
きれいな顔を歪めて、声を漏らした彼に僕は笑いをこらえる。
「お前、そっちだったのか?というか、俺には彼女がいるが」
「知ってるよ。別にどうってこともないんだ。ただ、これで最後だから言っておきたかっただけ」
「…俺は、今後もお前とは友人のつもりだったんだが」
「僕もそうだけど」
「告白しておいて?」
「どこかでキリをつけないと、終わらないから」
ため息を付く彼に、僕は精一杯の笑顔を送った。
厨で、出来立ての芋きんとんをいの一番に頬張りながら、そう言った長谷部くん。
僕が反応するより早く、隣にいた歌仙くんが吹き出した。
「…なんだ?」
「いや、なんでもない」
背を向けて笑いをこらえる彼を見ながら、僕はやれやれと洗い物に手を付ける。
うまかった、と颯爽と去っていった彼に歌仙くんは出入り口を見ながら「君も大変だなあ」と笑って言った。
「言わないのかい?君のためだよって」
「言わないけど…まさかここまで伝わってないとは思わなかったな」
「少しくらい恩に着せればいいのに」
「格好悪いじゃないか」
「そんなだから伝わらないんだ」
手痛い言葉だ。
彼の本来の下緒は赤色だ。
その色はまるで。
そこまで考えて、彼と目があった。
彼は僕に気づくと、薄く笑って、去っていった。
なんとなく、彼の巻いている下げ緒は燭台切光忠のものだと確信した。
根拠はない。だけど、この世に生まれ落ちてからずっと目にし続けているそれを見間違うはずなどないのだ。
そして、彼の向けた顔が。
懐かしむような、自嘲するような、それでいて優しいような。
何が言えるわけでもないけど、たった一度見かけただけの彼に会いたくて僕はそれから難度も万屋街に出向いている。
同じ顔をした刀たちが行き交う中を、僕は何度も彷徨っている。
卒業式の後、解散の前に二人でちょっと話がしたいと呼び出した彼は今更何を、という顔で立っている。
「長谷部くんが好きだよ。恋愛的な意味で」
「…………は?」
きれいな顔を歪めて、声を漏らした彼に僕は笑いをこらえる。
「お前、そっちだったのか?というか、俺には彼女がいるが」
「知ってるよ。別にどうってこともないんだ。ただ、これで最後だから言っておきたかっただけ」
「…俺は、今後もお前とは友人のつもりだったんだが」
「僕もそうだけど」
「告白しておいて?」
「どこかでキリをつけないと、終わらないから」
ため息を付く彼に、僕は精一杯の笑顔を送った。
厨仕事を終えて、執務室に書類仕事の手伝いをしに出向いたところ。
僕の顔を見た長谷部くんは開口一番そう宣った。
主の肘鉄が長谷部くんの横腹に入る。
「ありがとう燭台切、でもそんなに働かなくて大丈夫だよ。午前中も洗濯の手伝いをしてくれていたでしょう」
手を振る主に「でも、時間が空いたから」と返したら苦笑いで返された。
「時間ができれば、休んだらいいんだよ」
「暇にしているのはつまらないし、動いている方が楽しいんだよ」
「貧乏性だな」
「長谷部!」
「でも、長谷部くんも僕がいたほうが嬉しいだろう」
そう言うと、呆気に取られた彼の顔がみるみるうちに真っ赤に染まって、僕は笑った。
彼の本来の下緒は赤色だ。
その色はまるで。
そこまで考えて、彼と目があった。
彼は僕に気づくと、薄く笑って、去っていった。
なんとなく、彼の巻いている下げ緒は燭台切光忠のものだと確信した。
根拠はない。だけど、この世に生まれ落ちてからずっと目にし続けているそれを見間違うはずなどないのだ。
そして、彼の向けた顔が。
懐かしむような、自嘲するような、それでいて優しいような。
何が言えるわけでもないけど、たった一度見かけただけの彼に会いたくて僕はそれから難度も万屋街に出向いている。
同じ顔をした刀たちが行き交う中を、僕は何度も彷徨っている。
卒業式の後、解散の前に二人でちょっと話がしたいと呼び出した彼は今更何を、という顔で立っている。
「長谷部くんが好きだよ。恋愛的な意味で」
「…………は?」
きれいな顔を歪めて、声を漏らした彼に僕は笑いをこらえる。
「お前、そっちだったのか?というか、俺には彼女がいるが」
「知ってるよ。別にどうってこともないんだ。ただ、これで最後だから言っておきたかっただけ」
「…俺は、今後もお前とは友人のつもりだったんだが」
「僕もそうだけど」
「告白しておいて?」
「どこかでキリをつけないと、終わらないから」
ため息を付く彼に、僕は精一杯の笑顔を送った。
厨仕事を終えて、執務室に書類仕事の手伝いをしに出向いたところ。
僕の顔を見た長谷部くんは開口一番そう宣った。
主の肘鉄が長谷部くんの横腹に入る。
「ありがとう燭台切、でもそんなに働かなくて大丈夫だよ。午前中も洗濯の手伝いをしてくれていたでしょう」
手を振る主に「でも、時間が空いたから」と返したら苦笑いで返された。
「時間ができれば、休んだらいいんだよ」
「暇にしているのはつまらないし、動いている方が楽しいんだよ」
「貧乏性だな」
「長谷部!」
「でも、長谷部くんも僕がいたほうが嬉しいだろう」
そう言うと、呆気に取られた彼の顔がみるみるうちに真っ赤に染まって、僕は笑った。
「…鶴さん」
「相変わらずだな、長谷部は」
僕の視線の先にいた、長谷部くんと主を見てそう口にした鶴さんに僕は頷いて返す。
明らかに、主以上の気持ちを向けた表情に皆、彼の気持ちを察している。
「嫌にならないのか」
「なるよ、なるけど。…でも、こればかりは仕方ない」
「俺にはよくわからないねえ」
慰めるように僕の肩を叩くと、彼はひらりと踵を返していってしまう。
主と長谷部くんは庭で花を愛でている。その姿は恋人にも見えるが、主は刀に対して決して一線を踏み越えない。
「…仕方ない」
わかっていても、諦められない。彼も僕も。
卒業式の後、解散の前に二人でちょっと話がしたいと呼び出した彼は今更何を、という顔で立っている。
「長谷部くんが好きだよ。恋愛的な意味で」
「…………は?」
きれいな顔を歪めて、声を漏らした彼に僕は笑いをこらえる。
「お前、そっちだったのか?というか、俺には彼女がいるが」
「知ってるよ。別にどうってこともないんだ。ただ、これで最後だから言っておきたかっただけ」
「…俺は、今後もお前とは友人のつもりだったんだが」
「僕もそうだけど」
「告白しておいて?」
「どこかでキリをつけないと、終わらないから」
ため息を付く彼に、僕は精一杯の笑顔を送った。
厨仕事を終えて、執務室に書類仕事の手伝いをしに出向いたところ。
僕の顔を見た長谷部くんは開口一番そう宣った。
主の肘鉄が長谷部くんの横腹に入る。
「ありがとう燭台切、でもそんなに働かなくて大丈夫だよ。午前中も洗濯の手伝いをしてくれていたでしょう」
手を振る主に「でも、時間が空いたから」と返したら苦笑いで返された。
「時間ができれば、休んだらいいんだよ」
「暇にしているのはつまらないし、動いている方が楽しいんだよ」
「貧乏性だな」
「長谷部!」
「でも、長谷部くんも僕がいたほうが嬉しいだろう」
そう言うと、呆気に取られた彼の顔がみるみるうちに真っ赤に染まって、僕は笑った。
「…鶴さん」
「相変わらずだな、長谷部は」
僕の視線の先にいた、長谷部くんと主を見てそう口にした鶴さんに僕は頷いて返す。
明らかに、主以上の気持ちを向けた表情に皆、彼の気持ちを察している。
「嫌にならないのか」
「なるよ、なるけど。…でも、こればかりは仕方ない」
「俺にはよくわからないねえ」
慰めるように僕の肩を叩くと、彼はひらりと踵を返していってしまう。
主と長谷部くんは庭で花を愛でている。その姿は恋人にも見えるが、主は刀に対して決して一線を踏み越えない。
「…仕方ない」
わかっていても、諦められない。彼も僕も。
「うん?」
「他のやつの好きなものも作れ。不公平だ」
頬を緩めてご飯を頬張るくせに、ちょっと偉そうにそんなことを言う。
そんな彼に僕は少し呆れて見せる。
「作ってるよ。君が他の子より好きな料理が多いだけだろう」
「そんなことはないだろう」
「昨日だって、生姜焼きだった」
「いや、あれはうまかったぞ」
「その前は焼いたサワラ」
「あれもうまかったな」
「…君はなんでもおいしく食べれちゃうから、そんなふうに思うんだよ。昨日のも一昨日のも、君のために考えたメニューじゃないよ」
僕の言葉に不思議そうな顔でこちらを見るものだから、僕は笑うしかなかった。
厨仕事を終えて、執務室に書類仕事の手伝いをしに出向いたところ。
僕の顔を見た長谷部くんは開口一番そう宣った。
主の肘鉄が長谷部くんの横腹に入る。
「ありがとう燭台切、でもそんなに働かなくて大丈夫だよ。午前中も洗濯の手伝いをしてくれていたでしょう」
手を振る主に「でも、時間が空いたから」と返したら苦笑いで返された。
「時間ができれば、休んだらいいんだよ」
「暇にしているのはつまらないし、動いている方が楽しいんだよ」
「貧乏性だな」
「長谷部!」
「でも、長谷部くんも僕がいたほうが嬉しいだろう」
そう言うと、呆気に取られた彼の顔がみるみるうちに真っ赤に染まって、僕は笑った。
「…鶴さん」
「相変わらずだな、長谷部は」
僕の視線の先にいた、長谷部くんと主を見てそう口にした鶴さんに僕は頷いて返す。
明らかに、主以上の気持ちを向けた表情に皆、彼の気持ちを察している。
「嫌にならないのか」
「なるよ、なるけど。…でも、こればかりは仕方ない」
「俺にはよくわからないねえ」
慰めるように僕の肩を叩くと、彼はひらりと踵を返していってしまう。
主と長谷部くんは庭で花を愛でている。その姿は恋人にも見えるが、主は刀に対して決して一線を踏み越えない。
「…仕方ない」
わかっていても、諦められない。彼も僕も。
「うん?」
「他のやつの好きなものも作れ。不公平だ」
頬を緩めてご飯を頬張るくせに、ちょっと偉そうにそんなことを言う。
そんな彼に僕は少し呆れて見せる。
「作ってるよ。君が他の子より好きな料理が多いだけだろう」
「そんなことはないだろう」
「昨日だって、生姜焼きだった」
「いや、あれはうまかったぞ」
「その前は焼いたサワラ」
「あれもうまかったな」
「…君はなんでもおいしく食べれちゃうから、そんなふうに思うんだよ。昨日のも一昨日のも、君のために考えたメニューじゃないよ」
僕の言葉に不思議そうな顔でこちらを見るものだから、僕は笑うしかなかった。
「おい、近い。離れろ」
「いたっ」
長谷部くんの肘が脇腹に刺さって、思わず声を上げると隊員が何事かと振り返った。
なんでもないよ、と笑って返すと彼らは不思議そうな顔で再び前を向いて歩き出す。
長谷部くんは近侍だ。
僕と恋仲であることを皆には隠している。近侍としての威厳を保ちたいらしい。それと恋人の有無がどう関係するか僕にはわからないけど、癖者も多い集団生活で立場を保ちたい気持ちはわかる。
ちらりと横目で様子を見ると、彼は不安げな目でこちらを見上げていた。
それに微笑んで返す。
こういう時、やりすぎたかと様子を窺うように見てくる彼の顔が好きだ。
僕だけが知る、秘密の長谷部くん。
「…鶴さん」
「相変わらずだな、長谷部は」
僕の視線の先にいた、長谷部くんと主を見てそう口にした鶴さんに僕は頷いて返す。
明らかに、主以上の気持ちを向けた表情に皆、彼の気持ちを察している。
「嫌にならないのか」
「なるよ、なるけど。…でも、こればかりは仕方ない」
「俺にはよくわからないねえ」
慰めるように僕の肩を叩くと、彼はひらりと踵を返していってしまう。
主と長谷部くんは庭で花を愛でている。その姿は恋人にも見えるが、主は刀に対して決して一線を踏み越えない。
「…仕方ない」
わかっていても、諦められない。彼も僕も。
「うん?」
「他のやつの好きなものも作れ。不公平だ」
頬を緩めてご飯を頬張るくせに、ちょっと偉そうにそんなことを言う。
そんな彼に僕は少し呆れて見せる。
「作ってるよ。君が他の子より好きな料理が多いだけだろう」
「そんなことはないだろう」
「昨日だって、生姜焼きだった」
「いや、あれはうまかったぞ」
「その前は焼いたサワラ」
「あれもうまかったな」
「…君はなんでもおいしく食べれちゃうから、そんなふうに思うんだよ。昨日のも一昨日のも、君のために考えたメニューじゃないよ」
僕の言葉に不思議そうな顔でこちらを見るものだから、僕は笑うしかなかった。
「おい、近い。離れろ」
「いたっ」
長谷部くんの肘が脇腹に刺さって、思わず声を上げると隊員が何事かと振り返った。
なんでもないよ、と笑って返すと彼らは不思議そうな顔で再び前を向いて歩き出す。
長谷部くんは近侍だ。
僕と恋仲であることを皆には隠している。近侍としての威厳を保ちたいらしい。それと恋人の有無がどう関係するか僕にはわからないけど、癖者も多い集団生活で立場を保ちたい気持ちはわかる。
ちらりと横目で様子を見ると、彼は不安げな目でこちらを見上げていた。
それに微笑んで返す。
こういう時、やりすぎたかと様子を窺うように見てくる彼の顔が好きだ。
僕だけが知る、秘密の長谷部くん。
腕を掴む長谷部くんを引きずりながら僕は廊下を行く。
「おい待て止まれ頼む」
「止まりません」
他の刀がなんだなんだと部屋から顔を覗かせるが関係ない。
「おっ、とうとう堪忍袋の緒がきれたか」
庭で素振りをしていた同田貫くんが笑っている。
「今回という今回は許さないよ」
僕は腕の中の荷物を抱え直すと、自室を目指した。
長谷部くんが過労で倒れたのは三回目だ。次同じことをしたら強硬手段にでると言ってあった。
彼には、僕の部屋に引っ越してもらう。朝は起きる、夜は眠る、そんな当然のことを怠る人にいつまでも譲歩はできない。
「がんばれよー」
呑気な応援を背に、僕は行く。項垂れた彼を連れて。
「うん?」
「他のやつの好きなものも作れ。不公平だ」
頬を緩めてご飯を頬張るくせに、ちょっと偉そうにそんなことを言う。
そんな彼に僕は少し呆れて見せる。
「作ってるよ。君が他の子より好きな料理が多いだけだろう」
「そんなことはないだろう」
「昨日だって、生姜焼きだった」
「いや、あれはうまかったぞ」
「その前は焼いたサワラ」
「あれもうまかったな」
「…君はなんでもおいしく食べれちゃうから、そんなふうに思うんだよ。昨日のも一昨日のも、君のために考えたメニューじゃないよ」
僕の言葉に不思議そうな顔でこちらを見るものだから、僕は笑うしかなかった。
「おい、近い。離れろ」
「いたっ」
長谷部くんの肘が脇腹に刺さって、思わず声を上げると隊員が何事かと振り返った。
なんでもないよ、と笑って返すと彼らは不思議そうな顔で再び前を向いて歩き出す。
長谷部くんは近侍だ。
僕と恋仲であることを皆には隠している。近侍としての威厳を保ちたいらしい。それと恋人の有無がどう関係するか僕にはわからないけど、癖者も多い集団生活で立場を保ちたい気持ちはわかる。
ちらりと横目で様子を見ると、彼は不安げな目でこちらを見上げていた。
それに微笑んで返す。
こういう時、やりすぎたかと様子を窺うように見てくる彼の顔が好きだ。
僕だけが知る、秘密の長谷部くん。
腕を掴む長谷部くんを引きずりながら僕は廊下を行く。
「おい待て止まれ頼む」
「止まりません」
他の刀がなんだなんだと部屋から顔を覗かせるが関係ない。
「おっ、とうとう堪忍袋の緒がきれたか」
庭で素振りをしていた同田貫くんが笑っている。
「今回という今回は許さないよ」
僕は腕の中の荷物を抱え直すと、自室を目指した。
長谷部くんが過労で倒れたのは三回目だ。次同じことをしたら強硬手段にでると言ってあった。
彼には、僕の部屋に引っ越してもらう。朝は起きる、夜は眠る、そんな当然のことを怠る人にいつまでも譲歩はできない。
「がんばれよー」
呑気な応援を背に、僕は行く。項垂れた彼を連れて。
「光忠…」
すれ違う人に面影を見つけ、思わずその手を掴んでしまった。
驚いた顔で振り返る彼と、呆然と呟かれた名に、僕は思わず笑みを浮かべた。
「会いたかった、長谷部くん!」
思わず往来で抱きしめると、困惑した声で「今は長谷部くんじゃない…」と抗議の声が上がる。
なんでもいいよ。僕だって今生は光忠じゃない。
スーツ姿の彼は大学生の僕より少し年上なのかもしれない。
こんなところですれ違えたのは奇跡だ。絶対手放さない。
「おい、人の邪魔になる、離せ!」
背中を叩く手の可愛げのなさに、懐かしささえ覚えつつ、僕は彼の手を取って望み通り邪魔にならない道の端にエスコートした。
「おい、近い。離れろ」
「いたっ」
長谷部くんの肘が脇腹に刺さって、思わず声を上げると隊員が何事かと振り返った。
なんでもないよ、と笑って返すと彼らは不思議そうな顔で再び前を向いて歩き出す。
長谷部くんは近侍だ。
僕と恋仲であることを皆には隠している。近侍としての威厳を保ちたいらしい。それと恋人の有無がどう関係するか僕にはわからないけど、癖者も多い集団生活で立場を保ちたい気持ちはわかる。
ちらりと横目で様子を見ると、彼は不安げな目でこちらを見上げていた。
それに微笑んで返す。
こういう時、やりすぎたかと様子を窺うように見てくる彼の顔が好きだ。
僕だけが知る、秘密の長谷部くん。
腕を掴む長谷部くんを引きずりながら僕は廊下を行く。
「おい待て止まれ頼む」
「止まりません」
他の刀がなんだなんだと部屋から顔を覗かせるが関係ない。
「おっ、とうとう堪忍袋の緒がきれたか」
庭で素振りをしていた同田貫くんが笑っている。
「今回という今回は許さないよ」
僕は腕の中の荷物を抱え直すと、自室を目指した。
長谷部くんが過労で倒れたのは三回目だ。次同じことをしたら強硬手段にでると言ってあった。
彼には、僕の部屋に引っ越してもらう。朝は起きる、夜は眠る、そんな当然のことを怠る人にいつまでも譲歩はできない。
「がんばれよー」
呑気な応援を背に、僕は行く。項垂れた彼を連れて。
「光忠…」
すれ違う人に面影を見つけ、思わずその手を掴んでしまった。
驚いた顔で振り返る彼と、呆然と呟かれた名に、僕は思わず笑みを浮かべた。
「会いたかった、長谷部くん!」
思わず往来で抱きしめると、困惑した声で「今は長谷部くんじゃない…」と抗議の声が上がる。
なんでもいいよ。僕だって今生は光忠じゃない。
スーツ姿の彼は大学生の僕より少し年上なのかもしれない。
こんなところですれ違えたのは奇跡だ。絶対手放さない。
「おい、人の邪魔になる、離せ!」
背中を叩く手の可愛げのなさに、懐かしささえ覚えつつ、僕は彼の手を取って望み通り邪魔にならない道の端にエスコートした。
彼の名は博多くん。
僕の想い人と縁深い、僕にとっても馴染みある人。
彼に連れられて行った家で、遺影の中微笑む人を見た時、僕は出遅れてしまったんだなと呆れるような、不思議なような、そんな気分になった。
君はいつも僕のことをのろまだ鈍足だと言っていたけど、君が早すぎるんだ。今生ではとうとう追いつけもしなかった。
「…たまに、寄らせてもらってもいいかな?」
「なんぼでも。長谷部も喜ぶばい」
僕たちは笑いあい、それから少ししんみりとした。
こんな結果でも、やっぱり僕は君の今を知れてよかったと思うよ。
腕を掴む長谷部くんを引きずりながら僕は廊下を行く。
「おい待て止まれ頼む」
「止まりません」
他の刀がなんだなんだと部屋から顔を覗かせるが関係ない。
「おっ、とうとう堪忍袋の緒がきれたか」
庭で素振りをしていた同田貫くんが笑っている。
「今回という今回は許さないよ」
僕は腕の中の荷物を抱え直すと、自室を目指した。
長谷部くんが過労で倒れたのは三回目だ。次同じことをしたら強硬手段にでると言ってあった。
彼には、僕の部屋に引っ越してもらう。朝は起きる、夜は眠る、そんな当然のことを怠る人にいつまでも譲歩はできない。
「がんばれよー」
呑気な応援を背に、僕は行く。項垂れた彼を連れて。
「光忠…」
すれ違う人に面影を見つけ、思わずその手を掴んでしまった。
驚いた顔で振り返る彼と、呆然と呟かれた名に、僕は思わず笑みを浮かべた。
「会いたかった、長谷部くん!」
思わず往来で抱きしめると、困惑した声で「今は長谷部くんじゃない…」と抗議の声が上がる。
なんでもいいよ。僕だって今生は光忠じゃない。
スーツ姿の彼は大学生の僕より少し年上なのかもしれない。
こんなところですれ違えたのは奇跡だ。絶対手放さない。
「おい、人の邪魔になる、離せ!」
背中を叩く手の可愛げのなさに、懐かしささえ覚えつつ、僕は彼の手を取って望み通り邪魔にならない道の端にエスコートした。
彼の名は博多くん。
僕の想い人と縁深い、僕にとっても馴染みある人。
彼に連れられて行った家で、遺影の中微笑む人を見た時、僕は出遅れてしまったんだなと呆れるような、不思議なような、そんな気分になった。
君はいつも僕のことをのろまだ鈍足だと言っていたけど、君が早すぎるんだ。今生ではとうとう追いつけもしなかった。
「…たまに、寄らせてもらってもいいかな?」
「なんぼでも。長谷部も喜ぶばい」
僕たちは笑いあい、それから少ししんみりとした。
こんな結果でも、やっぱり僕は君の今を知れてよかったと思うよ。
喫煙室でやにわに長谷部がスマホを眼前に突きつけてくる。
「ねこ」
「そう、数日前に捨てられているのを見つけてな。拾った」
そう言いながら、こちらに突きつけていたスマホを己で覗き込み、目尻を下げる。
「かわいいだろう」
「うん、かわいいね」
脂下がる長谷部を見つめて、光忠も頷く。
「構えば逃げるくせに、気づけば寄ってきて」
そう言いながら写真をスワイプする姿に、うんうんわかる。と光忠は頷いて返す。
こちらから話しかけたらうっとうしそうにするくせに、こうやって自分の話したいときだけ寄ってくるんだよね。
「すごくかわいいと思う」
「そうだろ?」
得意げな長谷部に、光忠は笑った。
「光忠…」
すれ違う人に面影を見つけ、思わずその手を掴んでしまった。
驚いた顔で振り返る彼と、呆然と呟かれた名に、僕は思わず笑みを浮かべた。
「会いたかった、長谷部くん!」
思わず往来で抱きしめると、困惑した声で「今は長谷部くんじゃない…」と抗議の声が上がる。
なんでもいいよ。僕だって今生は光忠じゃない。
スーツ姿の彼は大学生の僕より少し年上なのかもしれない。
こんなところですれ違えたのは奇跡だ。絶対手放さない。
「おい、人の邪魔になる、離せ!」
背中を叩く手の可愛げのなさに、懐かしささえ覚えつつ、僕は彼の手を取って望み通り邪魔にならない道の端にエスコートした。
彼の名は博多くん。
僕の想い人と縁深い、僕にとっても馴染みある人。
彼に連れられて行った家で、遺影の中微笑む人を見た時、僕は出遅れてしまったんだなと呆れるような、不思議なような、そんな気分になった。
君はいつも僕のことをのろまだ鈍足だと言っていたけど、君が早すぎるんだ。今生ではとうとう追いつけもしなかった。
「…たまに、寄らせてもらってもいいかな?」
「なんぼでも。長谷部も喜ぶばい」
僕たちは笑いあい、それから少ししんみりとした。
こんな結果でも、やっぱり僕は君の今を知れてよかったと思うよ。
喫煙室でやにわに長谷部がスマホを眼前に突きつけてくる。
「ねこ」
「そう、数日前に捨てられているのを見つけてな。拾った」
そう言いながら、こちらに突きつけていたスマホを己で覗き込み、目尻を下げる。
「かわいいだろう」
「うん、かわいいね」
脂下がる長谷部を見つめて、光忠も頷く。
「構えば逃げるくせに、気づけば寄ってきて」
そう言いながら写真をスワイプする姿に、うんうんわかる。と光忠は頷いて返す。
こちらから話しかけたらうっとうしそうにするくせに、こうやって自分の話したいときだけ寄ってくるんだよね。
「すごくかわいいと思う」
「そうだろ?」
得意げな長谷部に、光忠は笑った。
「嫌だ」
「一人にしてくれ」
「嫌だ」
足早に歩く長谷部くんについて僕も早足で追いかける。走り出せば僕なんか置いていける彼が、走らない以上諦める理由がない。
「うまく整理できていない」
「それはそうだと思う。でも、君と僕で話し合うべきだ」
「その前に時間がほしいと言ってる」
「君は一人にすると絶対ろくなことを考えないから嫌だ」
睨み合いが続く。でも譲れないことだってある。
「俺を信用できないのか」
「こういったことに関しては、経験上僕の直感のほうが正しいと思ってる」
うぐ、と言葉を飲み込んだ長谷部くんは立ち止まり、大きなため息をついた。
「面倒な男だ」
それを君が言う?
彼の名は博多くん。
僕の想い人と縁深い、僕にとっても馴染みある人。
彼に連れられて行った家で、遺影の中微笑む人を見た時、僕は出遅れてしまったんだなと呆れるような、不思議なような、そんな気分になった。
君はいつも僕のことをのろまだ鈍足だと言っていたけど、君が早すぎるんだ。今生ではとうとう追いつけもしなかった。
「…たまに、寄らせてもらってもいいかな?」
「なんぼでも。長谷部も喜ぶばい」
僕たちは笑いあい、それから少ししんみりとした。
こんな結果でも、やっぱり僕は君の今を知れてよかったと思うよ。
喫煙室でやにわに長谷部がスマホを眼前に突きつけてくる。
「ねこ」
「そう、数日前に捨てられているのを見つけてな。拾った」
そう言いながら、こちらに突きつけていたスマホを己で覗き込み、目尻を下げる。
「かわいいだろう」
「うん、かわいいね」
脂下がる長谷部を見つめて、光忠も頷く。
「構えば逃げるくせに、気づけば寄ってきて」
そう言いながら写真をスワイプする姿に、うんうんわかる。と光忠は頷いて返す。
こちらから話しかけたらうっとうしそうにするくせに、こうやって自分の話したいときだけ寄ってくるんだよね。
「すごくかわいいと思う」
「そうだろ?」
得意げな長谷部に、光忠は笑った。
「嫌だ」
「一人にしてくれ」
「嫌だ」
足早に歩く長谷部くんについて僕も早足で追いかける。走り出せば僕なんか置いていける彼が、走らない以上諦める理由がない。
「うまく整理できていない」
「それはそうだと思う。でも、君と僕で話し合うべきだ」
「その前に時間がほしいと言ってる」
「君は一人にすると絶対ろくなことを考えないから嫌だ」
睨み合いが続く。でも譲れないことだってある。
「俺を信用できないのか」
「こういったことに関しては、経験上僕の直感のほうが正しいと思ってる」
うぐ、と言葉を飲み込んだ長谷部くんは立ち止まり、大きなため息をついた。
「面倒な男だ」
それを君が言う?
明らかな挑発だ、とわかっていながらも不快感が広がる。
「彼に言われるならともかく、君に言われる筋合いはないと思うけど」
「ええ、ですがあの方は聞き入れられなかったので、直接申し上げようかと」
平然と言い放つ彼に、ため息が出そうになる。しかし、感情を表せば思う壺になるようで平静を保つことに集中する。
「君がどう思おうと、決めるのは君じゃない。長谷部くんだ」
そう言ったところで、かたりと音がした。見れば怪訝な表情で長谷部くんが立っている。
これは面倒なことに、なった。
喫煙室でやにわに長谷部がスマホを眼前に突きつけてくる。
「ねこ」
「そう、数日前に捨てられているのを見つけてな。拾った」
そう言いながら、こちらに突きつけていたスマホを己で覗き込み、目尻を下げる。
「かわいいだろう」
「うん、かわいいね」
脂下がる長谷部を見つめて、光忠も頷く。
「構えば逃げるくせに、気づけば寄ってきて」
そう言いながら写真をスワイプする姿に、うんうんわかる。と光忠は頷いて返す。
こちらから話しかけたらうっとうしそうにするくせに、こうやって自分の話したいときだけ寄ってくるんだよね。
「すごくかわいいと思う」
「そうだろ?」
得意げな長谷部に、光忠は笑った。
「嫌だ」
「一人にしてくれ」
「嫌だ」
足早に歩く長谷部くんについて僕も早足で追いかける。走り出せば僕なんか置いていける彼が、走らない以上諦める理由がない。
「うまく整理できていない」
「それはそうだと思う。でも、君と僕で話し合うべきだ」
「その前に時間がほしいと言ってる」
「君は一人にすると絶対ろくなことを考えないから嫌だ」
睨み合いが続く。でも譲れないことだってある。
「俺を信用できないのか」
「こういったことに関しては、経験上僕の直感のほうが正しいと思ってる」
うぐ、と言葉を飲み込んだ長谷部くんは立ち止まり、大きなため息をついた。
「面倒な男だ」
それを君が言う?
明らかな挑発だ、とわかっていながらも不快感が広がる。
「彼に言われるならともかく、君に言われる筋合いはないと思うけど」
「ええ、ですがあの方は聞き入れられなかったので、直接申し上げようかと」
平然と言い放つ彼に、ため息が出そうになる。しかし、感情を表せば思う壺になるようで平静を保つことに集中する。
「君がどう思おうと、決めるのは君じゃない。長谷部くんだ」
そう言ったところで、かたりと音がした。見れば怪訝な表情で長谷部くんが立っている。
これは面倒なことに、なった。
大太刀とぶつかり、ウェイトの差に押し負け、弾き飛ばされても、最後まで彼の目から闘志は消えなかった。
試合に負けて、手を貸そうと伸ばされた手も断り、自力で立った彼は背筋を真っすぐ伸ばして、ただ一礼をした。
ひたむきな姿勢に僕は目を奪われ続けた。
「あれが、長谷部くん」
「そうだな。機動の早さが自慢らしい」
鶴さんが横で頷く。
「彼と一緒に戦えるのが楽しみだな。早く、うちの本丸にも来てほしい」
「なんだ、えらい気に入ったんだな」
「うん…心も、姿も真っすぐで、きれいだなって思うよ」
「はは、結構捻た奴もいるらしいけどな。良い奴が来るといいよな」
「うん、本当に」
「嫌だ」
「一人にしてくれ」
「嫌だ」
足早に歩く長谷部くんについて僕も早足で追いかける。走り出せば僕なんか置いていける彼が、走らない以上諦める理由がない。
「うまく整理できていない」
「それはそうだと思う。でも、君と僕で話し合うべきだ」
「その前に時間がほしいと言ってる」
「君は一人にすると絶対ろくなことを考えないから嫌だ」
睨み合いが続く。でも譲れないことだってある。
「俺を信用できないのか」
「こういったことに関しては、経験上僕の直感のほうが正しいと思ってる」
うぐ、と言葉を飲み込んだ長谷部くんは立ち止まり、大きなため息をついた。
「面倒な男だ」
それを君が言う?
明らかな挑発だ、とわかっていながらも不快感が広がる。
「彼に言われるならともかく、君に言われる筋合いはないと思うけど」
「ええ、ですがあの方は聞き入れられなかったので、直接申し上げようかと」
平然と言い放つ彼に、ため息が出そうになる。しかし、感情を表せば思う壺になるようで平静を保つことに集中する。
「君がどう思おうと、決めるのは君じゃない。長谷部くんだ」
そう言ったところで、かたりと音がした。見れば怪訝な表情で長谷部くんが立っている。
これは面倒なことに、なった。
大太刀とぶつかり、ウェイトの差に押し負け、弾き飛ばされても、最後まで彼の目から闘志は消えなかった。
試合に負けて、手を貸そうと伸ばされた手も断り、自力で立った彼は背筋を真っすぐ伸ばして、ただ一礼をした。
ひたむきな姿勢に僕は目を奪われ続けた。
「あれが、長谷部くん」
「そうだな。機動の早さが自慢らしい」
鶴さんが横で頷く。
「彼と一緒に戦えるのが楽しみだな。早く、うちの本丸にも来てほしい」
「なんだ、えらい気に入ったんだな」
「うん…心も、姿も真っすぐで、きれいだなって思うよ」
「はは、結構捻た奴もいるらしいけどな。良い奴が来るといいよな」
「うん、本当に」
厨に大きな食洗機が置かれて、僕と歌仙くんは口を開けた。
「…どうしたの、これ」
思わず聞くと、「買った」と胸を張る長谷部くん。
「随分と人が増えて、最近は片付けるだけで大変だっただろう。食器はこれに入れれば洗えるらしい」
「…高いんじゃないのか」
歌仙くんのつぶやきにも、「そのための貯蓄だろうが」と当然のように返す。
「貯蓄は軍資金としても大事だが、皆の生活を豊かにするのも大事なことだろうが」
思わず抱き合う僕たちに、長谷部くんはふふんと笑う。
「…皆お前らには感謝してるんだ」
大阪城で小判を追っていた皆の姿が思い起こされる。
感謝は、おいしいご飯で返さなくちゃ。
明らかな挑発だ、とわかっていながらも不快感が広がる。
「彼に言われるならともかく、君に言われる筋合いはないと思うけど」
「ええ、ですがあの方は聞き入れられなかったので、直接申し上げようかと」
平然と言い放つ彼に、ため息が出そうになる。しかし、感情を表せば思う壺になるようで平静を保つことに集中する。
「君がどう思おうと、決めるのは君じゃない。長谷部くんだ」
そう言ったところで、かたりと音がした。見れば怪訝な表情で長谷部くんが立っている。
これは面倒なことに、なった。
大太刀とぶつかり、ウェイトの差に押し負け、弾き飛ばされても、最後まで彼の目から闘志は消えなかった。
試合に負けて、手を貸そうと伸ばされた手も断り、自力で立った彼は背筋を真っすぐ伸ばして、ただ一礼をした。
ひたむきな姿勢に僕は目を奪われ続けた。
「あれが、長谷部くん」
「そうだな。機動の早さが自慢らしい」
鶴さんが横で頷く。
「彼と一緒に戦えるのが楽しみだな。早く、うちの本丸にも来てほしい」
「なんだ、えらい気に入ったんだな」
「うん…心も、姿も真っすぐで、きれいだなって思うよ」
「はは、結構捻た奴もいるらしいけどな。良い奴が来るといいよな」
「うん、本当に」
厨に大きな食洗機が置かれて、僕と歌仙くんは口を開けた。
「…どうしたの、これ」
思わず聞くと、「買った」と胸を張る長谷部くん。
「随分と人が増えて、最近は片付けるだけで大変だっただろう。食器はこれに入れれば洗えるらしい」
「…高いんじゃないのか」
歌仙くんのつぶやきにも、「そのための貯蓄だろうが」と当然のように返す。
「貯蓄は軍資金としても大事だが、皆の生活を豊かにするのも大事なことだろうが」
思わず抱き合う僕たちに、長谷部くんはふふんと笑う。
「…皆お前らには感謝してるんだ」
大阪城で小判を追っていた皆の姿が思い起こされる。
感謝は、おいしいご飯で返さなくちゃ。
「えっ」
君が主のものだということはわかってる。それでいいよ。当然だと思うし、それでこそ君だよ。
夜の縁側で二人、飲み交わしながらそんな話をしていた。
不意に取られた手と、まっすぐに見つめながらそんなことを言われて僕は何も言葉が出なかった。
「俺にだって、感情くらいある。…主命しか頭にないわけじゃない」
そう言って、目を伏せて、彼は続けた。
「今は無理だが、解放された後の全てはお前にやる」
「…本気で言ってる?」
「もちろんだ。主に宣言してもいい」
彼にとってのその言葉の重さくらい、わからないはずがない。
突然の告白に、僕は体中が沸騰したみたいだった。
大太刀とぶつかり、ウェイトの差に押し負け、弾き飛ばされても、最後まで彼の目から闘志は消えなかった。
試合に負けて、手を貸そうと伸ばされた手も断り、自力で立った彼は背筋を真っすぐ伸ばして、ただ一礼をした。
ひたむきな姿勢に僕は目を奪われ続けた。
「あれが、長谷部くん」
「そうだな。機動の早さが自慢らしい」
鶴さんが横で頷く。
「彼と一緒に戦えるのが楽しみだな。早く、うちの本丸にも来てほしい」
「なんだ、えらい気に入ったんだな」
「うん…心も、姿も真っすぐで、きれいだなって思うよ」
「はは、結構捻た奴もいるらしいけどな。良い奴が来るといいよな」
「うん、本当に」
厨に大きな食洗機が置かれて、僕と歌仙くんは口を開けた。
「…どうしたの、これ」
思わず聞くと、「買った」と胸を張る長谷部くん。
「随分と人が増えて、最近は片付けるだけで大変だっただろう。食器はこれに入れれば洗えるらしい」
「…高いんじゃないのか」
歌仙くんのつぶやきにも、「そのための貯蓄だろうが」と当然のように返す。
「貯蓄は軍資金としても大事だが、皆の生活を豊かにするのも大事なことだろうが」
思わず抱き合う僕たちに、長谷部くんはふふんと笑う。
「…皆お前らには感謝してるんだ」
大阪城で小判を追っていた皆の姿が思い起こされる。
感謝は、おいしいご飯で返さなくちゃ。
「えっ」
君が主のものだということはわかってる。それでいいよ。当然だと思うし、それでこそ君だよ。
夜の縁側で二人、飲み交わしながらそんな話をしていた。
不意に取られた手と、まっすぐに見つめながらそんなことを言われて僕は何も言葉が出なかった。
「俺にだって、感情くらいある。…主命しか頭にないわけじゃない」
そう言って、目を伏せて、彼は続けた。
「今は無理だが、解放された後の全てはお前にやる」
「…本気で言ってる?」
「もちろんだ。主に宣言してもいい」
彼にとってのその言葉の重さくらい、わからないはずがない。
突然の告白に、僕は体中が沸騰したみたいだった。
「何故…」
まるで幽霊でも見たかのようだ。
「逆に、どうして?」
どうして、あれで終わりだと思ったんだい?
光忠は、前世で長谷部に殺された。すまない、と謝りながら自分の胸に刃が突き立てられたのを覚えている。そう、覚えている。
「僕が好きで、失いたくなくて、耐えられなくて僕を殺して、それでどうして終わりになるんだい」
むしろ、続くよ、どこまでも。だって、手放す理由がない。
刀だろうが、人になろうが。
「俺は、お前を裏切った」
「裏切ってないよ。だって、僕のことが好きだろう」
長谷部は口ごもった。否定しないことが応えだ。
「だから…逃さないよ」
厨に大きな食洗機が置かれて、僕と歌仙くんは口を開けた。
「…どうしたの、これ」
思わず聞くと、「買った」と胸を張る長谷部くん。
「随分と人が増えて、最近は片付けるだけで大変だっただろう。食器はこれに入れれば洗えるらしい」
「…高いんじゃないのか」
歌仙くんのつぶやきにも、「そのための貯蓄だろうが」と当然のように返す。
「貯蓄は軍資金としても大事だが、皆の生活を豊かにするのも大事なことだろうが」
思わず抱き合う僕たちに、長谷部くんはふふんと笑う。
「…皆お前らには感謝してるんだ」
大阪城で小判を追っていた皆の姿が思い起こされる。
感謝は、おいしいご飯で返さなくちゃ。
「えっ」
君が主のものだということはわかってる。それでいいよ。当然だと思うし、それでこそ君だよ。
夜の縁側で二人、飲み交わしながらそんな話をしていた。
不意に取られた手と、まっすぐに見つめながらそんなことを言われて僕は何も言葉が出なかった。
「俺にだって、感情くらいある。…主命しか頭にないわけじゃない」
そう言って、目を伏せて、彼は続けた。
「今は無理だが、解放された後の全てはお前にやる」
「…本気で言ってる?」
「もちろんだ。主に宣言してもいい」
彼にとってのその言葉の重さくらい、わからないはずがない。
突然の告白に、僕は体中が沸騰したみたいだった。
「何故…」
まるで幽霊でも見たかのようだ。
「逆に、どうして?」
どうして、あれで終わりだと思ったんだい?
光忠は、前世で長谷部に殺された。すまない、と謝りながら自分の胸に刃が突き立てられたのを覚えている。そう、覚えている。
「僕が好きで、失いたくなくて、耐えられなくて僕を殺して、それでどうして終わりになるんだい」
むしろ、続くよ、どこまでも。だって、手放す理由がない。
刀だろうが、人になろうが。
「俺は、お前を裏切った」
「裏切ってないよ。だって、僕のことが好きだろう」
長谷部は口ごもった。否定しないことが応えだ。
「だから…逃さないよ」
長谷部くんの眉間に深く皺が寄る。しかし、彼もまた他に打開策が思いつかなかったらしい。
苦々しい顔でそれでも、頷いた。
「…信用してるぞ。必ず追いついてこい」
「任せてくれ」
そう応えたものの、何の勝算もなかったと知ったら君は怒るだろうか。
彼らの離れてゆく背中を見つめて、一つ息を吐いた。
しかしいつまでもそんなことを考えている暇もない。
すぐに追手の駆けてくる音がする。
「さあ、君たちには僕の相手をしてもらうよ」
他でもない彼の信用を裏切るんだ。
それならば、せめて。
「格好つけさせてもらわないとね!」
「えっ」
君が主のものだということはわかってる。それでいいよ。当然だと思うし、それでこそ君だよ。
夜の縁側で二人、飲み交わしながらそんな話をしていた。
不意に取られた手と、まっすぐに見つめながらそんなことを言われて僕は何も言葉が出なかった。
「俺にだって、感情くらいある。…主命しか頭にないわけじゃない」
そう言って、目を伏せて、彼は続けた。
「今は無理だが、解放された後の全てはお前にやる」
「…本気で言ってる?」
「もちろんだ。主に宣言してもいい」
彼にとってのその言葉の重さくらい、わからないはずがない。
突然の告白に、僕は体中が沸騰したみたいだった。